第8章 第八話
毎年行われる恒例行事の怪談パーティーの日はみんなで甲斐の家に泊まるのが常だった為、思わず出た言葉だったが、それを知らない如月にとってはどんな誤解をされてもおかしくない発言だったことに、言った後から知念は気が付いたのだった。
「あ、いや、怪談パーティーの日は毎年みんなで泊まるんばーよ」
慌てて取り繕うように言葉を続ける知念に、如月はクスリと笑った。
自分の考えていることを見透かされたようで、知念はまた恥ずかしくなった。
「そうなんだ。なんか楽しそうだね、修学旅行みたい」
「やんやー。みんなで花火したり、流しそうめんしたりもするやんに。楽しいさぁ。今年は参加せー(参加しろよ)。…永四郎も喜ぶんど」
知念が最後に付け加えた言葉に、如月の顔が曇った。
如月のその表情に知念は困惑した。
彼氏と一緒の時間を過ごせることは、如月にとって嬉しいことではないのだろうか。
薄々知念が思っていたことが、明確に輪郭を伴って浮かび上がってくるような気がした。
もしかしたら、如月は木手のことを、もう好きではなくなっているのでは――…。
頭に浮かんだその言葉を知念は必死でかき消した。
そんなのは自分の願望が生み出した戯言にすぎない。
いつだって自分の都合のいいようにしか働かない頭に知念は嫌気がさした。
「う、うん…知念君、永四郎のことなんだけど…」
顔を曇らせたまま如月が言葉を紡ぎだした時、教室に誰かが入ってくる音がした。
振り返らずともそれが誰であるか、知念にははっきりと分かっていた。
自分の背中に注がれる敵意にもとれる鋭い視線を送る人間なんて、1人しか思いつかない。
「…知念クン、平古場クン達が探していましたよ。」
鋭い視線の割には木手の声は穏やかだった。
如月の手前、自分にきつく当たることができないのだろう、と知念は思った。
「あ、ああ。わかった」
木手の眼鏡を押し上げる仕草が、とっとと出て行けとでも言っているような気がして、知念はテニスバッグを背負いなおして教室を後にすることにした。
じゃあな、と2人に挨拶して知念が教室を出ていくと、木手はにっこりと如月に微笑んだ。