第8章 第八話
彼女は窓の縁にひじを乗せて、外の景色をぼうっと眺めているようだった。
風に揺れる茶色い髪が、夕日を受けて赤くキラキラと光って見えた。
如月の静かな時間を邪魔しないように、知念は静かに教室のドアを開けた。
如月の他に誰もいない静かな教室に、ドアを開けるカラカラとした音が響いた。
音に振り返った如月は一瞬目を丸くして、すぐににっこりと知念にむけて微笑んだ。
「びっくりしたぁ。今日は部活長かったんだね」
「ああ…昼に早乙女監督と一悶着あったんやっさ。それで監督が無茶な指示だしまくったんやっし」
「…お昼の、見てたよ。昼休み終わっても知念君帰ってこないからどうしたのかと思ってた。…永四郎と一緒だったよね」
「…あ、あぁ…」
知念は如月が昼のことを追及してくるような気がして、思わず身構えた。
けれど彼女はそのことを深く聞くことはなく、いまだ姿を現さない木手のことを気にしているようだった。
「そういえば永四郎は?」
「あー、監督に用事言いつけられてたさぁ。あんくとぅ、なーくてん時間かかるあらんな(だから、もう少し時間がかかるんじゃないか?)」
「そっか……知念君は、もう帰るんだよね?どうしたの?何か忘れ物?」
「わんは…だぁ(ほら)、これ」
知念はバッグから先ほど拾った文庫本を取り出して、如月の前に差し出した。
あ、と小さく声を漏らして、如月は恥ずかしそうにその文庫本を知念から受け取った。
「…ホラーは苦手なんじゃなかったんば?」
「う、うん…あ、ほら、夏だし…暑いから、さ…?」
それが本当の理由ではないことは知念にもはっきり分かった。
けれど知念はそれを問い詰めるなんて、無粋な真似をするような男ではなかった。
彼女が必死に誤魔化す本当の理由が、自分が願うものと同じであればいい、と薄く望んで知念は小さく笑った。
「凛が今年も怪談パーティーやりたいって言ってたばーよ。如月もちゅーんか(来るか)?」
「ええっ、それはちょっと…夜眠れなくなりそうだし…」
「泊まっていけばいいさぁ」
さらりと言ってしまってから、自分の発言に知念は恥ずかしくなった。