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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第7章 第七話


少しずつ元気を取り戻したのか賑やかになった部員達を横目に、知念はもう一度窓から外の様子を確かめた。
さきほど如月がいた木陰には、彼女の姿はなかった。
その代わりに、彼女が存在していたことを示すかのように、彼女が手にしていた文庫本が落ちていた。
(やっぱり見間違いじゃなかった…。でもなんでいなくなったんだ…?)

如月の行動理由はよく分からなかったが、考えても答えは出そうになかったので、知念は着替えを終えてしまうことにした。
そして誰よりも先にあの文庫本を拾いに行こうと思っていた。
特に、木手に見つかってしまう前に。
いつもならこんな場所で如月は木手を待っていたりしないし、その上知念に見つかって姿を消してしまった。
先ほどの彼女は通学カバンも持っていないようだったから、あそこでずっと木手を待っているつもりはなかったのだろう。

もしかしたらこっそり部活の様子を見に来ていたのかもしれない。
何もこそこそせずとも堂々と見に来ればいいのに、そうできない理由が如月には何かあったのだろうか。

やはりいくら考えても答えは出ない。
別に如月が何の理由があって、何の目的であそこにいたかなんて、自分が気にすることでもないのに。
それでも如月のことが頭から離れそうにない自分に、知念はふっと小さく笑った。
そんな知念の様子には誰も気が付いていなかった。


「凛、帰りにアイスでも食って帰ろうぜ。寛、慧君も行くだろ?」
「おお、行く行く!今日はアイス日和やんに!」
「あぁ…」

甲斐に誘われるまま返事をして、知念は帰り支度を手早く済ませ、先に出てる、と短く告げて先ほど如月が落としていった文庫本の元へと急いだ。

「ほら、知念クンはもう着替え終わりましたよ。アナタ達は着替えるのに一体どれだけ時間がかかるのですか」

早く如月に会いたいと気持ちが急く時に限って、部員達はだらだらと部室に残ってしまうものだ。
気持ちが焦るにつれて、部員達の動きが妙に遅く感じてしまう。
部室の鍵を管理している為、この場を一刻も早く立ち去りたくともできない自分の立場に木手はイラつきを覚えた。

「おう、まだ残っていやがったな。えー、木手、これやっとけ」

乱暴に開けられた部室のドアからのぞいた顔に、木手は思わず深いため息をついてしまう。
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