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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第7章 第七話


木手のその様子を見て、相変わらず几帳面だなぁ、とこぼしながら甲斐は制汗スプレーを体に吹きかけた。
勢いよく吹きかけたので白い煙があたりに漂い、制汗剤の匂いが部室内に充満した。

「ちょっと、甲斐クン。それ使うときは換気しなさいっていつも言っているでしょ」
「わっさん!(ごめん)」

誰かに言われる前に窓の傍にいた知念が窓を全開にする。
夕暮れの少し涼しくなった風が外から吹き込んできて、知念の前髪を揺らした。

部室の前の木陰に、見知った小さな影が一つ知念の目に映った。
(如月?部室前で待ってるなんて珍しい…)
木陰で読書をしていたのだろう、如月の手には文庫本が握られていた。
窓を開けた音に気が付いたのか、如月はこっちをまっすぐ見つめていた。

思わずあってしまった目に、知念はドキリとした。
甲斐の制汗剤の匂いにたまらず窓を全開にしたものの、知念は自分が着替え途中で上半身裸だったことを忘れていた。
パッと赤くなった顔をそらした如月の様子に知念は、自分の体を見下ろして、ハッとする。

「わっさん!」

言って知念は勢いよく窓を閉めてしまった。
急に大声を出した知念に、部員はみなびっくりして彼の方に目をやった。

「…急にどうしたんばぁ?」
「あ、いや…外に、人が」
「へぇ?こんなとこに誰かうんば(いるのか)?」

言って甲斐が窓に近寄って少しだけ開けた窓から外の様子を覗いた。

「…誰もうらんど(いないぞ)?」
「?今さっき、そこに」
「……寛、夏だからって怖い話はやめろよなぁ」

甲斐が口をへの字に曲げて知念に抗議した。
毎年夏になると知念の怖い話を聞かされるのだが、甲斐と平古場は夜中トイレに行けなくなるほどトラウマになっているらしい。
それなのに毎年怪談パーティーを企画するのはその2人だった。
怖いもの見たさでついつい手を出すのだろうが、知念はそんな2人にも容赦はしなかった。

「今年もそろそろやるか~怪談パーティー」

平古場が甲斐の言葉につられ、にこやかにそう言うと、木手がぴしゃりと言い放った。

「で、また夜中にトイレに行けないとみんなを起こすのでしょう?いい加減学習したらどうなんですかアナタ達」
「寛の話が怖すぎるんばーよ!いや、寛の存在自体が怖い!懐中電灯、下から当てた時の寛の顔なんて直視できないんど!」
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