第7章 第七話
その日もいつもと何も変わらないはずだった。
いつものように部活が終わるのを待ってくれている如月を教室まで迎えに行って、一緒に下校する。
変わったことと言えば、仔猫に会いに知念の家に寄らなくてよくなったことくらいで。
それによって2人きりの時間がしばらくぶりに長く味わえることに木手は気をよくしていた。
仔猫を眺めて嬉しそうにしている如月を見るのも好きだったが、やはりすぐそばで如月のぬくもりを感じたり、彼女の視界に自分だけしかいないという独占欲を感じることの方が、今の木手が欲しているものだった。
「貴方達、早く着替えなさいよ」
イライラした口調で木手が言うと、甲斐達は部活で疲れ切った重い体をようやくベンチから引き離し始めた。
のそのそと部室へ向かう部員達を後ろから追い立てるも、皆の足取りは一様に重いままだった。
それもそのはず、今日の部活は監督の早乙女が異様に張り切って、いつにも増して過酷な運動量だったのだ。
昼の木手と知念に対する制裁の為のしごきだったが、それは他の部員にも適用された。
木手も十分疲れてはいたが、久しぶりにゆっくり如月との時間が持てることで頭がいっぱいで、あまり疲れは感じていなかった。
そんな木手を化け物を見るような目で、甲斐や平古場は見つめている。
「ぬーんち(なんで)永四郎は平気なんばぁ?」
「凛、永四郎はうり(ほら)、くぬくさー(この後)ご褒美が待っちょるんどー(待ってるからさ)」
「…あー、いいはずよー(いいなぁ)。ちゅらかーぎーな彼女がわんも欲しいやぁ」
「やんやー(だなぁ)、わんもー」
部室に入るなり着替えもそこそこに話に花を咲かせる甲斐と平古場に木手は冷たい眼差しを向けた。
木手はすでに汗を拭きとった体にデオドラントウォーターを塗り付けているところだった。
「甲斐クン、平古場クン、早く着替えなさいよ」
「えー(ああ)。わぁーった、わぁーった」
手をぶらぶらさせて、平古場は一睨みする木手に気のない返事を返した。
まったく、とつぶやきながら木手は自分の身支度に専念することにした。
少し乱れてしまった髪の毛を、ロッカーに備え付けた鏡で確認しながら丁寧にセットしなおす。