第6章 第六話
だから如月はその場で返事をすることはせず、しばらく考える猶予を木手からもらっていた。
木手は女子生徒に大変人気があるようで、羨ましがるクラスメイト達に「なんで速攻OKしないの」と何度も言われてしまった。
あんなにいい男を待たせるなんて、とことあるごとに周囲に言われ、もし断ったりしたら、余計にごちゃごちゃと言われそうな雰囲気だった。
如月も年頃の女の子らしく、恋人という存在に憧れはあった。
それがあの木手だったら、周囲の言うようにそれはきっと素敵な恋人になるだろう。
付き合っているうちに木手のことを異性として意識できるようになるかもしれない、と如月は思うようになっていった。
木手から告白されて、1週間。
ようやく返事をした如月に、木手は心から嬉しそうに微笑んだのだった。
木手はそれまで1週間も告白の返事を待たされたことはなかったし、何より自分から告白したのは初めてのことだった。
だから始まりの時点で、如月という存在は木手にとって今まで付き合ったどの彼女より特別な存在だったのだ。
「えー!(おい!)お前ら何してんだ!とっくにチャイムは鳴っただろうが!」
窓の外から聞こえた怒号に、如月の意識は呼び戻され、声のした方に目をやった。
怒号を発したのは竹刀をブンブン振り回している早乙女だとすぐに分かった。
早乙女の向かう先にいたのは、空白の席の持ち主の知念と、木手だった。
木手も知念も、授業をサボるような人間ではなかったので、二人がそこで何をしているのか、如月は気になって仕方なかった。
(木手くん、最近知念くんのこと気にしてたもんなぁ…)
勘のいい木手のことだから、如月の気持ちの変化に気が付いているのかもしれない、と如月は思った。
けれど彼は如月に面と向かって確認してきたことは無い。
プライドの高い彼のことだから、如月が他の者に目を向けることを許せないはずだ。
それも相手が同じテニス部の知念となればなおさら認めたくはないだろう。
如月自身に確認してそれが確定事項になることを、木手は恐れている、と如月は薄々感じ取っていた。