第6章 第六話
うっすらと浮かんだそのシルエットはカーテンの上の方まで伸びていて、その声の主がとても背の高い人だということを示していた。
話している相手は養護教諭だろうか、彼の話に時々相槌を打ってはカリカリと何か書きこんでいる音がした。
如月はゆっくり体を起こして、少しだけカーテンを開けて、外の様子を覗いた。
気配を感じた声の主と養護教諭がこちらを見て驚いた顔をしていた。
「如月さん、起きても平気?頭がクラクラしたりしてない?」
「はい、大丈夫です。あの、私…」
「きっと酸欠になっちゃったのね。すごい人ごみだったものね、掲示板の前。あなたが倒れたところに知念くんがいて良かったわ。他の子だったら将棋倒しになっちゃってたかも。
それに彼がここまであなたを運んでくれたのよ」
「あ、ありがとうございます、知念先輩」
お礼を言う如月の顔を見て、知念と養護教諭はきょとんとした顔をして、少しして養護教諭がケラケラと笑い出した。
「如月さん、知念君、体は大きいけど、貴方と同じ1年生よ?」
「えっ?!そうなんですか?!てっきり3年生くらいだと思って…ごめんね、知念君…」
「気にさんけー(気にするな)よく言われるどー」
知念の表情はあまり変化がなく、どことなくぶっきらぼうな感じがした。知念の顔は如月の顔の遙か上で、本人にその気は無いのかもしれないが、如月を見下ろす知念の顔は如月から見ると、睨みつけられているように見えた。
「大事にならねーんで良かったさぁ」
頭上高くから降り注ぐ知念の声音はとても優しく穏やかで、如月の心に染みていった。見上げた知念の顔はほんの少しだけ微笑んでいるように見えた。
初対面の如月を保健室まで運んできてくれたのだから、知念は優しい人なのだと如月は思い直した。
「さ、入学式始まるわよ。如月さんは念のため、私と一緒に端で参加しましょうか。知念君はクラスのとこね」
入学式では卒業式と同じように、各クラスごとに名前を呼びあげられ、それに「はい」と返事して起立するのが慣例のようだった。
いまだクラスを確認できていなかったことを思い出して、如月はいつ自分の名前が呼ばれるかとドキドキして待っていた。