第6章 第六話
だから如月が仔猫を拾おうとしたことを木手が咎めたのは、ごく当然のことだった。
木手の言う事はもちろん理解できたのだが、それでも如月は仔猫をあのまま放っておくことはできなかった。
そこに現れたのが、クラスメイトの知念寛だった。
クラスの女子の大半がその容姿を怖がってあまり近寄らない存在だったが、彼がとても優しい人物だということを如月はよく知っていた。
如月も最初は知念のことを怖い人なのかと思っていた。
知念と初めて会ったのは、2年前の中学校の入学式の時だった。
中学3年生になった今でこそ如月はクラスで真ん中くらいの身長だったが、中学に入りたての頃は学年で一番身長の低い生徒だった。
貼りだされたクラス表を見ようにも周囲の生徒の頭でほとんど何も見えないくらい、如月は同じ新入生の中に埋もれていた。
前に出ようにも話に夢中な子達や、自分のクラスを確認しようと後から後から押し寄せる子達の勢いにのまれて、如月はただただその場でじっとしているしかなかった。
周囲から頭一つへこんでいた如月は、人が密集した中にずっといたため、軽い酸欠状態になっていた。
息苦しさを感じて、少し離れたところに移動しようとするも、後ろからはどんどん生徒がやってきて、その流れに逆らうのも難しかった。
ごめんなさい、と消え入りそうな声でなんとか周囲に気付いてもらおうとするも、賑やかなこの集団の中では如月の声に耳を傾ける者は皆無に等しかった。
目の前が真っ白になって、体の力が抜けていくのをまるで他人事のように感じながら、如月は意識を失いかけた。
自由の効かなくなった体は重力に逆らえず前のめりに倒れこんでいく。
薄れゆく意識の中で、固い地面の衝撃を覚悟した如月だったが、おとずれたのは誰かの引き締まった体の感触だった。
「ひーじか?(大丈夫か)」
遠くの方でする低い落ち着いた声に、如月は何故かひどく安堵を覚えた。
次に彼女がその声を間近で聞いたのは、保健室のベッドの中でだった。
「…で、急に倒れて……たぶん…小さいから……だけど…」
白いカーテン越しに細切れに聞こえてくるのは、どこか穏やかな低い声。