第6章 第六話
昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響き、鳴り終わってもいまだ空白になっている知念の席を、如月は気にしていた。
今日は朝に少し会話をしたっきり知念と話をしていない。
いつもならもう少し休み時間に会話をするのが常だった為、如月はふいに訪れた、いつもと違うリズムの学校生活に違和感を覚えっぱなしだった。
そうなった原因は自身にあることを、如月は自覚していた。
昨日、知念の家で知念と二人きりになってから。
知念の態度は急によそよそしくなった。
それだけ、彼が自分のことを意識してくれているのだと思うと、普段通り会話をできない寂しさを感じながらも如月はどこか嬉しいと思ってしまっていた。
木手と彼氏彼女として付き合ってはいるものの、如月の心は知念に傾きかけていた。
彼女自身、そういった自分の気持ちに驚いていたし、彼氏の木手を裏切って知念のものになろうとした自分を嫌悪したりもした。
けれど心はまっすぐ知念に向かっていってしまっていて、もう止められそうになかった。
昨日、知念の家に一人で行ったのも、どこかそうなることを期待していたのかもしれなかった。
如月が知念に触れる度、彼が見せる僅かな変化を如月は見逃していなかった。
知念も少なからず如月に対して好意を抱いていることを彼女は分かっていた。
そのうえで、知念に対して時々わざと隙を見せていた。
けれどそれは頭で考えて、というより、自然とそう振る舞ってしまっていたのだった。
計算で動いていない分、たちが悪いといえばたちが悪い。
(私ってこんなずるい人間だったっけ…こんな私を知ったら、知念くん幻滅するかな。…木手くんだって幻滅するよね…ああでもその方がいいのかもしれない)
先に如月の頭に浮かんだのは知念だった。
木手よりも先に知念のことを考えてしまうあたり、自分の心が知念に思いっきり傾きだしていることを如月は改めて自覚した。
木手は如月に対してとても優しい。けれど、たまに自身の正論で如月を自分の意のままに操ろうとするところがある。
仔猫のことだってそうだ。
猫アレルギーであることに加え、家は賃貸、そんな如月のところでは仔猫を飼える万全の環境とは言えなかった。