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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第5章 第五話


「…昨日は夕食を作らなならんかったし…」

夕飯の当番だから、と如月と木手を家から追い出したのだ。
急いで台所に向かったことにすれば、話の辻褄は合う。おかしいところは何もないはずだ。
ところが、木手が知念に執拗に迫ったのには、訳があったのだ。

木手はとっておきの切り札を隠し持っていたのだった。

「キミのお母さんに会ったんですよ、昨日の帰り。家でご飯を食べないかと誘われたんです。
帰ってから作る、とキミのお母さんは言っていましたよ。キミに夕飯を作るようにとは頼んでいなかったようですが?」

木手は決して追及の手を緩めようとしなかった。
ここで決着をつけてしまおうと思っているのだろう、昼休憩の終了を告げるチャイムが鳴り響いても木手はこの場を動こうとしない。
いくら知念がポーカーフェイスを装っていても、言葉で木手の追及をかわそうとしても、無駄なようだった。

「何か、ありましたね。美鈴と」

木手の声は確信に満ちていた。
鋭い目は変わらないまま知念を捉えている。
じりじりと夏の日差しが容赦なく知念達に照り付け、額に浮かんだ汗がゆっくりと知念の顔を伝っていく。
知念が言葉を発するのを木手はただ黙ってじっと待っている。

「何も、ねーんど」
「えーいくさーやー(嘘をつくな)」

普段はあまり琉球方言を話さない木手が方言を口にする時は、たいてい感情が高ぶっている時だ。
今まさにその時で、木手の表情は知念に対する怒りに満ちていた。
けれどいくら木手が知念に対して怒りをぶつけてこようとも、知念は自身の心情を吐露するつもりは毛頭なかった。
吐露したところで一体何になるというのか、と知念は思っていた。
ただ木手と知念の間に妙なしこりが残るだけだ。
知念の本心を聞くまでは、木手はこの場を動かないだろうし、知念にも動くことを許さないだろう。
しかし知念もおいそれと胸中を告白する気はなく、ただ時間だけがじりじりと過ぎていった。

「…仮に」

重い口を開いた知念に、木手はぴくりと反応した。
ようやく観念したか、と思う木手だったが、知念の口から出た言葉は木手が予想していたものとは裏腹のものだった。

「仮に、わんと如月の間に何かあったとして。永四郎、やーはちゃーすが?(お前はどうする?)如月と別れるんだば?」
「…っ、俺は…」
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