第5章 第五話
如月はよく言えば天真爛漫だったが、裏を返せば身勝手な人間だとも言えた。
しかし知念の個人的な理由で如月に猫のことを諦めさせたのだから、身勝手なのは自分も同じだ、と知念は思った。
(俺だって、自分のことしか考えてない…だから昨日…あんなことを…)
「…いや、遠くへ行ったんやっさ…」
「遠く?」
「そう…あんくとぅ(だから)、会えない」
仔猫はいまだ知念の部屋の中。
けれど遠くへ、遠くへ行ったことにしなければ、如月との結びつきが弱くならない気がして、知念はそう嘘をついた。
自分の気持ちをも、知念はそこに重ねたのかもしれない。
彼女と距離を取る為の小さな嘘。
うんと遠くへ如月への想いを追いやって、少し前の日常に戻ろう。
知念の胸の中はそんな思いでいっぱいだった。
「そうなんだ…寂しいな…」
如月の言葉は、仔猫に向けての言葉のはずなのに、知念はまるで自分に向けられた言葉のような気がして胸がズキンと痛んだ。
悲しそうな顔で佇む如月に、知念はそれ以上言葉をかけることができなかった。
***
「そうですか、貰われていきましたか」
「ああ、あんくとぅ(だから)、もう永四郎ぬ時間はとらせねーんど」
「…少し、さみしいですね」
「えっ?」
仔猫が知念の元からいなくなったと報告を聞いた木手の言葉は、知念にとっては意外なものだった。
毎日毎日如月に付き合って部活で疲れた体をおして知念の家まで行き、帰りは如月を家まで送ってから自分の家に帰っていたのだ。
木手にとっては大好きな彼女の為なんでもないことだったのかもしれないが、知念は自分の彼女が他の男の元に嬉々として通うのに付き合うのは相当な苦痛と労力を要するのでは、と思っていた。
だから、仔猫がいなくなってもう知念の家に寄って帰ることがなくなれば、ほっと安心こそすれ、寂しさを感じるなんてことはない、と知念は思っていたのだ。
「美鈴があんなに喜んでいたのでね。…なんとなく情がうつったのでしょうね。あの子猫に会えなくなるのは少しさみしい。」
視線を地面に落として、ふっとどこか寂しそうに微笑む木手を、知念は意外なものを見るような目で見ていた。
知念の視線を感じて木手は言葉を続けた。