第4章 第四話
「美鈴、マスクは?アレルギーが出て苦しい思いをするのはキミ自身ですよ」
「大丈夫、今日は薬のんできたから。鼻炎のだけど」
「…それでも予防を怠ってはいけませんよ」
まるで保護者のように如月の心配をする木手だったが、先ほど知念を見ていたあの鋭い目は、確かに「男」の目だった。
自分の心の内を悟られる前に如月が現れてくれて助かった、と知念は思った。
先ほどの会話から想像するに、木手は知念の如月に対する気持ちをただの友情とは思っていないようだった。
知念はそろそろこの3人の関係は潮時なのかもしれない、と心の中でつぶやいた。
「…美鈴、ここ、どうしたのですか?」
「ん?ああ、猫ちゃんにひっかかれちゃって」
知念の耳がぴくりと反応する。
木手の長い指がそっと如月の胸元の絆創膏に触れている。
先ほどの情景が鮮やかに知念の頭に浮かびあがってきて、自身の下半身に熱が集まっていくのを感じた。
「…悪い、2人とも。今日夕飯作る当番なんやさ」
「すみませんね、知念クン。すぐお暇します」
「ごめん、知念くん。気を遣えなくて。お邪魔しました」
もちろん夕飯の当番だというのは嘘だった。
けれどこのまま2人と一緒にいるのはとても心臓に悪い。
何がきっかけとなってまた知念の理性がとんでしまうか分からない。
慌てて家を出る2人を見送るのもそうそうに、知念は自分の部屋に引っ込んだ。
冷めそうにない熱にそうっと触れると、いつも以上に敏感に反応してしまう自分がいた。
たまらず知念は自分で自分を慰めることにした。
頭に浮かぶのは、あの時押し倒した如月の姿だった。
知念の想像力の産物は、艶っぽい顔と声で知念を必死に求め、泣いてすがってきた。
それに応えるように知念も激しく彼女の中を突き動いた。
高まった熱は一気に外へ放出され、知念の高ぶった感情も一緒に体外へ持って行ったかのようだった。
「…何、やってるんだ、わんは…」
丸めたティッシュをゴミ箱に投げ捨て、畳に寝転んで天井を見上げる。
カリカリとケージをひっかく音に、目だけ仔猫の方に向けると、ケージから出して欲しそうに知念を見つめる仔猫と目が合った。
にゃあ、と小さく鳴く子猫に、知念は小さく返事をして、ケージから解放してやった。