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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第4章 第四話


「…あれ、何もしないの?」

先ほどまでの勢いは姿を消し、静かに自分を解放した知念に如月は尋ねた。

「…して、欲しかったのか…?」
「どうかな。でも知念くんならいいかなって思った」

ドキリとするような言葉だったが、当の如月はいたって平然としていた。
何か策を弄した上での発言ではなく、ただ純粋に心からそう思って出た言葉だったのだろう。
ということは、如月は多少なりとも自分のことを異性として意識してくれているということなのだろうか?
木手という彼氏がいながら他の男に粉をかけるような女性だとは思っていなかったし、そういうことには軽蔑すら覚えるが、それでも知念は少し嬉しく思ってしまっていた。

「如月、お前…」

知念が言いかけたその時、玄関のチャイムがタイミングよく鳴って、在宅を確認する木手の声が聞こえた。

「残念だったね、知念くん」

如月はさらりとそう言って知念にむけて微笑んだ。
彼女の言動の意図は知念にはよく分からなかった。

「…永四郎連れてくる。…ボタン、閉めとけ…」
「ん」

玄関を開けた先にいる木手の顔を、知念はまともに見ることができなかった。
先ほど自分が如月に手を出しかけたこと、目の前の木手を裏切りかけたことが、知念の胸にずしりと重しのようにのっかって動かない。

「すみませんね、美鈴はお邪魔していますか?」
「ああ。…わんの部屋にいるさぁ」
「本当に、毎日毎日、迷惑ではありませんか知念クン?」
「…別に構わんさぁ。エサ代とか出してもらってるしな」
「それでも毎日ですよ?…それとも…美鈴が家に来ることが…君にとって何か意味があることなのかな?」
「…?どういう意味だばぁ?」

木手の目は知念の心のうちを探るように鋭さを増していった。
ここで目をそらしてしまえば、木手の疑惑を深めることになり、先ほどのことも露見してしまいそうな気がした。
知念は動揺を悟られない様にしっかりと木手の目を見返した。

「なーに見つめ合ってるの?二人とも」

クスクス笑う如月の声に木手と知念の間の空気は一瞬にして溶解した。
木手はマスクもつけずに玄関に現れた如月に心配の声を上げた。
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