第4章 第四話
「だぁー(ほら)、見せー」
「う、うん…」
如月の首元から胸元にかけて伸びたひっかき傷にそっと消毒液を浸したコットンを押し当てた。
コットンから滲みだした消毒液がつぅっと、如月のシャツに隠された胸の谷間へと伝って消えていった。
知念は思わずごくりと唾を飲みこみ、その滴の行方を目で追ってしまった。
「…知念、くん…?」
「……わ、わっさん(悪い)……」
恥ずかしさのあまり知念は彼女から勢いよく目をそらした。
救急箱から絆創膏を取り出して、俯きながら絆創膏の剥離紙を剥がそうとするが、動揺しているのかうまく剥がすことが出来ない。
手がじっとりと汗せばんでいて、指先に力がうまく入らない。
焦れば焦るほど自分の動揺や気持ちが如月に伝わってしまうと頭で分かっているのに、震える指先は止まらない。
「貸して」
そっと如月の小さな指が近づいてきて、知念の手から絆創膏を取り上げた。
ペリペリと剥離紙が音をたててゆっくりと剥がされ、茶色の絆創膏が姿を現す。
如月は制服のシャツの一番上のボタンをあけて、絆創膏を胸元に貼った。
V字にひらいた夏服の胸元でさえ今の知念には刺激が強いというのに、ボタンが開けられたせいで覗く胸の谷間は彼の理性を吹き飛ばすのに十分だった。
次の瞬間には、知念は如月を畳の上に押し倒してしまっていた。
いきなりの出来事に如月はただ目を丸くして知念を見上げるだけだった。
掴む手首にギュッと力をこめるが、如月は抵抗する様子を見せなかった。
「…おばさん達、帰ってきちゃうよ…?」
如月の口から出たのはそんな言葉で。
それならばまだ充分に時間はある、と知念は無言で如月を見つめた。
それよりも、如月が一切の抵抗の姿勢を見せないことの方が知念は気になっていた。
「…永四郎のことは…いいのか…?」
「……よくないって言ってほしい…?」
「……」
知念には如月の考えていることが分からなかった。
自分のことを試すような如月の言葉に、知念の心はかき乱される。
一体何を考えているのか、何故抵抗しないのか、何故…。