第21章 第二十一話
2人の事情を知っている者だけが、如月の声援の意味を分かっていた。
その声援をきっかけに、知念は息を吹き返したように攻撃に転じ、試合はあっという間に比嘉が勝利をおさめた。
「ありがとうございました」
ネットを挟んで、握手を交わす知念と柿谷だったが、どこか晴れ晴れとした顔をした知念とは対照的に、柿谷は苦々しい顔をして知念を見上げた。
いつまでも慣れそうにないぎょろりとした目で見下ろされ、柿谷はすぐに目をそらしてしまった。
テニスの試合だけでなく、他の部分でも知念に負けたような気がして、柿谷の気分はどんどんと沈んでいくのだった。
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結果、試合は比嘉のストレート勝ちに終わった。
比嘉は勝利者らしくどこか悠然とコートから出て行った。
如月達はというと、涙を浮かべた柿谷を中心に集まって今回の大会を振り返っていた。
今まで全国大会の舞台に出たこともなかった柿谷達が、ここまで勝ち残ったのは奇跡的なことだったが、やはりどこかで「自分達はもっと上へ行ける」という気持ちが出てきていたのだろう、部員達はいまだ負けたことが信じられないような面持ちで柿谷の言葉に耳を傾けていた。
柿谷の隣では、少し肩身が狭そうに佇む如月の姿があった。
いくら知念との仲が浅からぬ仲だとはいえ、試合中に対戦相手の応援をしてしまったことは好ましい事ではない。
充分分かっていたはずなのに、あの時如月は気持ちを閉じ込めておけそうになかったのだ。
思わず叫んでいた、知念への声援。
こうして今、柿谷達と一緒にいても、心はもう知念達の元へと向かってしまっていることを、如月は痛いほど自覚していた。
(…やっぱり駄目だ。このまま知念君とさよならなんて、出来ない)
柿谷の提案で最後に円陣を組むことになっても、如月の頭の中は知念のことでいっぱいだった。
部員達の涙声まじりのかけ声もどこか遠いもののように聞こえてしまう。
比嘉はまだ試合が残っているから、今日はまだこの後も会場に残っている。
だから知念がこの会場に残っているうちに、自分の正直な気持ちを伝えなければ。
そんなことを思い、如月は気ばかりが焦ってしまった。