第21章 第二十一話
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試合後、負かした相手の近くにいるのは憚られた為、知念は如月達が円陣を組んだ場所からかなり離れたところにいた。
対戦した如月の学校の部長にとっては高校最後の試合だったからか、長い話をしているようだ。
部長の隣にいる如月も神妙な面持ちで話に聞き入っているように見える。
さっきの試合で、敵であるはずの自分に大きな声援を送ってきた如月。
それまでうまく動けなかったのが嘘みたいに、彼女の応援が自分の背中を力強く押してくれた。
あの声援をきっかけに、いつもの自分を取り戻せた。
それがどうしてなのか。
答えは明白だ。
試合中に目と目で語り合った、あの感覚が間違いでなければ。きっと如月も自分と同じ気持ちでいるはずだ。
早く彼女と話がしたいと思うものの、あの輪の中に割り込むほど情緒が分からない人間では知念は無かった。
解散のその時まで、知念は静かに待つことにした。
「…話、終わったみたいだぞ」
知念の後ろから如月達の様子を伺っていたのか、平古場がそっと知念に声をかけてきた。
振り向いて平古場に頷いてみせ、行ってくると言って知念は如月の方へと歩を進めていった。
途中、知念に気が付いた如月の表情が、ぱあっと明るくなっていくのが知念の目に入った。
まるで中学の時の如月みたいで、知念の胸にはじわりと温かく広がるものがあった。
「…っ、知念君」
「如月」
ほぼ同時に、2人してお互いの名を呼ぶ。
お互い相手の目に浮かぶ色を見て、何を考えているのか瞬間的に理解した。
―同じことを、考えてる。
知念も如月も、そう心の中でつぶやいた。
そのつぶやきが本当に同じものかどうか確かめるように、2人は少しずつ距離をつめ、一度じっと互いの瞳の奥を確かめるように見つめ合った。
「…試合、お疲れ様」
「…ああ」
「知念君達、やっぱり強いね」
「…如月のおかげだ」
「私の…?」
気が付いていないのか、といった感じで知念は如月を見つめた。
首をかしげる如月に、知念は小さく笑みをこぼした。
「あの、声援。ガツンときた」
対戦相手であるはずの知念に向けられた、如月の大きな声援は知念の背中を力強く押してくれた。