第21章 第二十一話
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大会、三回戦が始まった。
ネットを挟んで知念と柿谷は睨み合っていた。
遥か頭上から知念に見下ろされる形の柿谷は、知念の落ちくぼんだ暗い瞳に少したじろぎながらも、負けたくない、と自分の意思を知念にぶつけていた。
試合はコートを2面使って行われ、シングルスとダブルス同時進行で進んでいった。
如月は両コートの試合を応援していたものの、やはり知念の出ているダブルスの方が気になっていた。
シングルスの方は比嘉に押され気味だったが、ダブルスでは柿谷達が有利に試合を進めていた。
昨日の試合の時とは違って、知念の動きが悪いように如月には思えた。
中学までの知念と比べても、今日の彼はどこか精彩を欠いている。
―七海ちゃんと別れたからだろうか。それとも、私と再会したから…?
そんな考えが如月の頭をよぎった。
自分との再会がここまで知念の調子を崩すほど、彼に影響を与えたのだとしたら。
どれほど知念の中で如月の存在が大きいものなのか、いやでも分かってしまう。
知念と同じように、如月もまた彼のことを考えずにはいられないでいた。
今だって、自分のチームを応援しているように見せかけてその実、誰よりも知念の姿を目で追ってしまっているのだ。
知念が不調な分、平古場が懸命にカバーして回り、点差はそう開いてはいなかった。
なんとしてでも勝利を収めたい柿谷は、目に見えて動きの悪い知念を執拗に狙い始めた。
足元に落ちるボールのすぐそばを、知念のラケットがかする。フレームに当たったボールは知念が思ってもいない方へと飛んで行ってしまった。
それに柿谷がチャンスとばかりに飛びついて、鋭いスマッシュを放った。
勢いよくボールは比嘉のコートに返り、跳ね上がる。
ボールが飛んでいく軌道上には知念の姿も平古場の姿もない。誰もがそのまま柿谷達の得点になると信じて疑わなかった。
「知念君なら取れるよ!!」
コートに響いた声援は、如月の口から発せられたものだった。
知念と如月の視線が絡み合う。
如月は力強く頷いて見せ、それを見た知念の口端はゆっくりと持ち上がっていった。
対戦相手のはずなのに声援を送った如月を、周囲の人間は不思議そうな顔をして見つめていた。