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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第21章 第二十一話


「それで、って……。だからね、もう別れたの。美鈴と知念君の間に何も障害はないの。やっと落ち着けるんだよ、2人とも」
「落ち着けるって……急にそんな事言われて、はいそうですかって知念君とくっつけるわけないよ…」
「くっついてもらわないと困るよ」

それまで穏やかな笑みを浮かべていた七海の顔が、ふっと影を落としたように鋭いものに変わった。
七海のまとう空気までもが変わり、如月はごくりと息を飲んだ。

「でなきゃ、私と木手君が浮かばれない」
「……」
「何の為に神様がチャンスをくれたと思ってるの? そのチャンスをつかむのに何をためらうことがあるの? あんなに望んでた知念君の手をつかむのに、何をためらうの?」
「七海ちゃん、そんなの脅しと一緒だよ」
「そうだよ。脅しだよ。知念君と幸せにならなきゃ、私許さない。ずっと知念君の心に住み続けて置いて、このままあんただけ知念君のこと忘れ去ろうなんて、虫が良すぎるもの」

七海の強引な理屈に、如月はなんと返答してよいやら困ってしまった。
多分、今の七海に何を言っても通じないだろう。彼女は知念と如月をくっつけることにひどく固執しているようだった。それが自分の使命でもあるかのように。

「でもだからって、そんなすぐに知念君と」
「じゃあいつなら? 一ヶ月後? 一年後? そうやってまた目を背けて逃げて、自然に消えていくのを待つつもりなの?」
「そういう、わけじゃ……」
「あんたじゃなきゃ、ダメなんだよ。知念君の隣にいるのは、美鈴じゃなきゃダメなの。私じゃないんだよ。…いくら望んでも、私じゃ、ダメなの」

言葉をつまらせる七海に、如月の胸まで苦しくなった。
七海がどんな気持ちで身を引いたのか、もう十分すぎるほど、如月には伝わっていた。

木手に別れを切り出したあの時、いつも冷静な木手が取り乱しながら言った言葉を如月は思い出していた。

―『なぜ、俺じゃダメなんですか?何が足りないんですか?』

何故だったのだろう。
何故、私は永四郎では満足できなかったのだろう。
何故、知念君は七海では満足できなかったのだろう。

そこに明確な答えなどありはしなかった。
ただ、『好きな人』になれなかった。ただ、それだけだった。
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