第21章 第二十一話
誰にでも知られたくないことの1つや2つはあるだろう。そう柿谷も分かっているものの、如月のこととなるとどうしても気になってしまっていた。
「…詳しいことは分かんないけどさ…なんか、困ったことあるんだったら言ってくれよ。力になれることあるかもしれないし」
「……ありがとう」
それきり、如月は窓の外に目を向けるばかりで、柿谷の方へ視線をよこそうとしない。
拒絶の意思を見てとった柿谷も、それ以上如月に問い詰めることはしなかった。
バスが会場についたのは予定よりも早い時間だった。
荷物を所定の位置に置くとすぐに部員達はアップを始めた。
マネージャーである如月も、試合に向けて準備を始めようとしていたその時だった。
「美鈴」
如月の目の前に現れたのは、かつての親友の七海だった。
真剣な面持ちの七海の目から視線をそらして、如月は俯くことしか出来ずにいた。
知念の彼女だと分かった今、七海に対してどんな態度でいればいいのか、如月には分からなかった。
親友の幸せを喜ぶ気持ちと、長年想い続けた知念をとられたような妬ましい気持ちと、ぐちゃぐちゃになった今の心境では、七海とまともな話は出来そうになかった。
「…ごめん、準備しないと」
試合前だと七海も分かっているはずだ。
マネージャーの仕事を盾にして、如月はその場から離れようとした。
けれど、七海がそれを許すはずが無く、如月は七海にその右腕をしっかりと掴まれてしまった。
「少しだけ、話を聞いて欲しいの」
「…後じゃダメ?試合前だし、色々と準備が」
「今じゃないとダメなの。大事なことだから。お願い、聞いて」
七海は必死に如月の背に呼びかける。
振り向いてくれなくてもいい。ただ聞いてくれさえすれば。
そんな一心で、七海は如月に言葉をかけ続けた。
「あのね。私と知念君、別れたの」
七海のその言葉を聞いた時、如月は思わず七海の方へ振り返っていた。
驚いた顔で振り返った如月に、七海は穏やかな笑みを浮かべていた。
「だからね、知念君と幸せになって」
「何、言ってるの…?」
「言っておくけど、美鈴の為に別れたんじゃないから。私がもう無理だったから別れただけだよ」
「……それで…?」