第21章 第二十一話
「柊……」
知念には、七海の言葉が本心から出た言葉なのか、如月の為に身を引こうとして出た言葉なのか、判別がつかないでいた。
こういう時の女性は厄介だと、知念は思った。
嘘をついているのかいないのか。
『目は口ほどに物を言う』なんてことわざがあるが、じっと七海の目を見つめても、彼女の内心なんてこれっぽっちも知念には分からなかった。
「今なら木手くんの気持ちよく分かるな。振り向いてくれない相手を想うって、物凄く辛い事なんだって。たとえ彼氏彼女ってカタチに収まってたとしても、実際の心と心がお互いを見ていないと意味がないんだって」
七海の言葉に、知念は何も言えなかった。
自分がどれだけ彼女を傷つけていたのか、彼女が今まで何を考えていたのか。
こうやって本人の口から聞いてようやく、分かったような気がした。
「……大丈夫だよ、美鈴も知念くんのことずっと好きだって言ってたし。私、知念くんと付き合ってたこと、あの子に言ってないから。だから、あの子と幸せに」
「俺、言った」
それまで黙って七海の話を聞いていた知念が突然口を開いた。
驚いた七海は一度瞬きをして、知念の言葉をゆっくりと頭の中でもう一度再生させた。
「言ったって……何を。まさか、私と付き合ってるって言ったの?!」
その言葉に頷いた知念に、七海は頭を抱えてしまった。
如月に対して嘘がつけなかったのだろう、それも彼の優しさだと七海は思ったものの、そういうところくらいは狡賢く生きていけばよいのに、と思わずにはいられなかった。
「なんでそんな馬鹿正直に……黙ってたら分からなかったのに」
「そんな狡い真似は出来ない」
心の中に違う人を想い続けて、自分と付き合っていたことは狡い真似ではないのか、と七海は喉元まで出かかったものの、なんとか飲み込んだ。
今更その話を蒸し返しても仕様がない。ため息をつきながら、七海は1つ、知念に提案を持ち掛けた。
「明日、美鈴に私から話す。もう別れたって。だから知念君はちゃんと自分の気持ちをあの子に伝えて」
七海の言葉はある種脅迫のようにも聞こえた。けれどたとえ脅迫だったとしても、七海がそうする権利は充分にあると知念には思えた。
「……分かった」
知念の答えに、七海は満足そうに頷いた。