第4章 第四話
「お邪魔しまーす!」
元気よく如月が挨拶をするも、いつも家の中から返ってくるはずの返事はなかった。
「…?誰もいないのか?」
珍しいこともあるものだと知念が居間に置かれた書置きを見ると、そこには母親とちび達が少し離れたショッピングセンターへ遠足の買い物に行く、という内容が書かれていた。
知念の頭に浮かんだショッピングセンターは家から車で40分ほどかかる場所にある。
書置きに記された時刻を見れば、出かけたのはつい先ほどのようで、2時間ほどは家に如月と2人でいられそうだった。
(いや…永四郎が急いでやってくるはずさぁ……って、何考えてるんだ、俺は…)
「おばさん達出かけてるの?」
「ああ…ちび達の遠足の買い物に行ったらしい」
「そっかぁ……じゃあ、今日は2人きりだね」
「…だな」
如月が妙に「2人きり」だと強調するものだから、冷静になれと落ち着かせたはずの知念の心臓は落ち着きを取り戻す前にまた慌ただしく動き出した。
意識をするとなんだか気まずい雰囲気が漂う気がして、知念は如月を仔猫の元へと案内する。
ふすまを開けて部屋へ如月を通すと、知念はすぐに部屋を後にした。
冷蔵庫から麦茶を取り出し、洗い場に置いてあるグラスを2つ取り出して、部屋へと戻った。
「ちょっと大きくなったよねぇ?」
「そうだな」
猫に集中している如月の邪魔をしないように静かに部屋に近づいたはずなのに、知念が部屋に近づいたのと同時に如月は振り返った。
瞬間知念の胸はドキリとし、お盆を握る手に知らず知らずのうちに力が入る。
「きゃっ?!」
「っ、大丈夫か?!」
如月の腕の中に収まっていた仔猫が急に暴れ出し、如月の鎖骨あたりをひっかいて逃げ出してしまった。
仔猫は知念の足元へと駆け寄り、カリカリと知念の大きな足にじゃれついてくる。
知念はその大きな手で仔猫を抱き上げケージに戻すと、如月の傷を確認しようと彼女に向き合った。
「見せてみろ」
「大したことないよ」
「どこが。血ぃ出てるやっし。消毒薬とってくる」
知念は慌てて救急箱を探しに居間へと急いだ。
いつもちび達の怪我の手当をするのはもっぱら知念の役目だったので、救急箱のありかはおろか、怪我の手当もお手の物だった。