第21章 第二十一話
柊は、あれきり知念と話していないようだった。
明らかに知念を避けて、木手のそばから離れなかった。知念も気まずいのだろう、柊のそばによることは無かった。
「明日の試合、大丈夫か?」
田仁志は心配そうに平古場の顔を見ながらも、大きな口にご飯をまた一口放り込む。
「…さぁな。今日も酷かったしな。…あいつが、あんなにメンタル弱いとは思ってなかった」
「……きっとそれだけ…如月の事が、寛の中で大きな存在なんだろ」
「そうだな。…中学の時からだからな。…笑えるくらい、一途だよなあいつも」
平古場の言葉に、田仁志はご飯を口に放り込みながら頷く。
田仁志の茶碗はあっという間に空になり、田仁志はお代わりをもらいに席を立って行った。
「ちょっと羨ましいけどな。そんだけ誰かを好きになれるってよ」
田仁志が残していった言葉が、平古場の頭の中で何度も巡る。自分とは全く違う恋愛観を持つ知念に、もどかしさを感じることも多かったものの、田仁志の言う様に、それだけ深く誰かを好きになれるというのは、少し羨ましい気がする。
だからこそ、今態度をハッキリさせない知念に対して、平古場は苛立ちを隠せないでいた。
いつまでも柊から、如月から逃げているだけでは駄目だと知念もよく分かっているはずだ。
また明日、試合で如月達の事を引きずるようなことがあれば、平古場は張り倒してでも知念に決着をつけさせるつもりでいた。
答えを出すのは知念自身だとしても。背中を押すくらいは、友人として許されるだろうと平古場は考えていた。
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「やっぱり、私から言った方がいいのかな」
かつての親友と思わぬ再会を果たしてから、どこか暗い表情を隠せないでいる七海の口からぽつりと漏れ出した言葉に、木手はすぐに返答出来ずにいた。
明確に言葉にせずとも、彼女が何を言わんとしているのか、木手にはよく分かっていた。
知念との関係をこれからどうするのか。彼女が言いたいのはその事以外ないだろう。
よく分かっていたからこそ、簡単に返答が出来なかった。少しでも言葉を間違えれば、七海を大きく傷つけることになると木手は思っていたからだ。
「……どうでしょう。こういう場合、相手からきちんと言ってくるべきだと、俺は思いますけどね」
木手はあえて、知念の名前を口にしなかった。