第20章 第二十話
知念の言葉を聞いた如月は、驚きのあまりか固まってしまっていた。
彼女を抱きしめたりする前に、話さなければならなかった。そう知念が思ってみても、今更遅かった。
平古場の言葉が、知念の頭の中に響いた。如月のことを『中途半端』だと罵っていた彼の声が、今度は自分に向いた気がした。
(『中途半端』なのは、如月じゃなくて、俺の方やんに――。如月を忘れられないくせして、柊と付き合って。そしてまた柊と付き合ったまま、如月を追っかけて……)
「そう、なんだ…七海ちゃん、いい子だもんね。知念君が好きになるのも、分かるよ」
そう言って頷きながら、なんとか笑顔を作ろうと如月は懸命になっていた。ぎこちなく笑う彼女の目からは、また涙がこぼれ始めていた。
自分の言動が、如月のことも柊のことも傷つけてしまうことに、知念は今更ながら気が付いたのだった。
「…そっか。そうだよね。二年半もあったら、そういうこともあるよね……」
知念はずっと自分一筋だと、どこかで自分勝手にそう思っていた如月には、親友だった七海と知念がそういう関係になっていたことは随分とショックな事だった。
自分の行動を振り返れば、愛想を尽かされていて当然なのだから、知念が他の誰かと付き合っていてもおかしくはないと、頭では如月にも分かってはいた。
分かってはいても、実際にそうなのだと現実を突きつけられると、心が軋んでいくのだった。
「…ごめんね、私、二人がそういう関係だって知らなくて。今更顔出して、邪魔にしか、ならないね、私。…七海ちゃんのこと、大事にしてあげてね。知念君だったら、大丈夫だと思うけど」
「…如月、俺は」
「駄目だよ、知念君。……七海ちゃんと、付き合ってるんでしょ?」
「……それは、そう、だけど……俺は……」
お前の方が好きだ、と言葉を続けることは、知念には出来なかった。ここまでの行動で、柊にも知念の本当の気持ちはバレてしまっていただろう。けれど、柊にきちんと別れの言葉を告げもせずに、如月と一線を越えてしまうことは出来なかった。
言葉を詰まらせたまま宙を彷徨う知念の手を見つめながら、如月は静かに微笑んだ。
「…会えて、嬉しかったよ。追いかけてきてくれて、ありがとう」