第20章 第二十話
「……でも、でもね……。忘れて欲しいって思ってるはずなのに、私、ずっと知念君のメール楽しみにしてた。こっちで1人ぼっちで寂しい時、辛いことがあった時、知念君のメールが私の心の支えになってた。……なのに返事一つ返さないで、ごめんなさい。ずっとずるい私で、自分勝手な私で、ごめんなさい…!!」
「……美鈴」
知念の長い腕が、如月の体をすっぽりと包む。骨ばった知念の腕が如月の背中に食い込んだ。ほんの少し痛みを感じながらも、知念の腕の中の如月は嬉しくてたまらなかった。
どんなに謝罪を尽くしても、到底許されないと思っていたけれど、知念に抱きしめられたことで、今までの自分の行いが許されたようなそんな気がしたからだった。
自分を一目見るなり追って来てくれた知念の情念の深さに、少し怖いくらいだった。けれどそんな情念深さがあったからこそ、今自分は彼に許されているのだろう、と如月は思った。
もっと彼が淡泊な人だったら。きっと今頃は私の事などすっかり忘れてしまっていただろう。そんなことを思いながら、如月が知念の体に抱き着くと、それに応えるように知念もまた如月を抱きしめる力を強めるのだった。
「知念君……」
ふいに、如月が知念の体から離れて、赤くなった瞳で知念を見上げた。急にまじまじと自分を見つめてきた如月に、知念の心臓はやかましく鳴り始める。
そっと如月の頬に触れると、静かに彼女は目を閉じた。ゆっくりと彼女の顔に自分の顔を寄せて行った知念だったが、その途中ではたと大事なことを思い出し、動きを止めてしまった。
いつまで経っても動きのない知念に、目を開けた如月が不思議そうに彼の顔を見つめた。
「…? …知念君…?」
「……わっさん……俺、大事な事言うの忘れてた」
「大事な、事って…?」
言い淀む知念の姿を前にして、如月の中に、嫌な予感が湧き上がってきた。自分に手を伸ばしかけた彼が、それを躊躇する理由。ぼんやりと頭に浮かぶその理由が、正解でなければ良いと思いながら、如月は知念の返答を待った。
「…如月は、俺にとって特別で。すごく大事に想ってる……想ってるけど……俺、今、柊と付き合ってるんだ」