第20章 第二十話
「折角会えたんだ。やーの顔を見て話がしたい」
知念の言葉に、如月はようやくゆっくりと顔を上げた。知念を見上げる如月の目は真っ赤だった。頬には幾筋もの涙の痕が見て取れた。
「…ごめんなさい、知念君」
言ってまた顔を伏せそうになる如月を止めようと、知念の手は如月の顎に添えられていた。優しく顎を持ち上げれば、涙で揺れる大きな瞳の中に、知念の姿がハッキリと映っているのが見える。
「謝らなくて、いい。……何も、やーを責めたいわけじゃない……」
本当は、知念にも幾ばくか如月を非難したい気持ちはあった。けれど先ほど平古場が自分の代わりに怒鳴り散らしていったおかげで、言いたいことはほとんど言われてしまった。今更自分が同じように彼女を罵ったところで、事態は何も進展しないのは目に見えていた。
知念はそれよりも、何故彼女が連絡を拒んだのか、ただその理由が知りたかった。
「…なぁ、なんで連絡くれなかったんばぁ?」
二年半、一度も連絡をよこさなかった彼女が一体何を考えていたのか。好きだという気持ちはあっても、彼女の考えは分からないままだった。今確かめなければ、きっとこの先確かめるチャンスはないだろう。
知念はなるだけ如月が責められていると感じないように、優しく彼女に問いかけた。
「……あの、事件の後…知念君、お見舞いに来てくれたでしょう?」
「あぁ……」
忌まわしいあの事件を少しでも彼女に思い出させてしまうことに、知念は胸が痛んだ。如月も思い出したくは無いのだろう、ぎゅっと噛んだ唇は微かに震えている。
「あの時、私、知念君のこと……拒んだよね。知念君は心配して来てくれたのに、酷い対応をして……沖縄を離れる時も、黙って離れて。…そんな私に、知念君と連絡取る資格なんてないって思って……もう、私のことは忘れてもらおうって思ってたの」
「……」
如月の理由を聞いた知念は、その理由に拍子抜けしてしまった。お見舞いの時に拒まれたことは、事件から日も経たないうちに会いに行った自分が悪いと思っていたし、黙って沖縄を去ってしまったのも、あの時の彼女の心境を思えば責める事なんて出来ない。
そんな小さなすれ違いで、ここまできてしまったのかと、知念は深いため息をついた。