第20章 第二十話
神様がもし本当にいるのなら、なんて残酷なことをするのだろうかと、平古場は思わずにはいられなかった。
傍から見ていただけの自分でも、胸が締め付けられるのだから、当の本人達はどれほど辛い思いをしているのだろうか。
如月にずっと振り向いてもらえなかった木手も、お互い好きなはずなのにすれ違ってばかりの知念と如月も、付き合っているのに片思いのような柊も。
タイミングが違えば、このうちの誰かは幸せになっていたかもしれないのに。何故、今、このタイミングで。このメンバーを神様は引き合わせたのか。
「私もさ、少ししんどいなって思ってたんだ」
平古場が言葉を返せないでいると、七海が静かに語り始めた。彼女の頬の涙の筋を見つめながら、平古場も木手も黙って彼女の話に耳を傾ける。
「…どんなに私が知念君のことを好きになっても、知念君はずっと美鈴の事を想ってて。それでも、いつか…私を、私だけを見てくれるようになるって…そう思ってたけど」
静かに首を振って、七海はため息をついた。それ以上は言葉にするのが辛いのか、七海は俯いて地面を見つめるばかりだった。
「…俺は、キミの気持ちがよく分かりますよ」
「木手君……」
「相手に想いが通じなければ通じないほど、自分の気持ちはどんどん膨らんでいく。そして、その気持ちに押しつぶされそうになる。苦しくてたまらないのに、気持ちは抑えられない。…その状態から脱するには、相手を変えるんじゃなく、自分が変わる方が遥かに楽だし、早い。……だから、もう別れたいと、キミは思うんですよね」
木手の言葉に、七海は静かに頷いた。平古場は二人のやり取りを見て、これ以上自分がいくら騒いでも、七海の決心を変えることは出来なさそうだと悟った。
いまだ納得はいかなかったが、本人が決めた以上、これ以上口出ししても意味がないだろう。当事者でない自分がいくら言葉をかけたところで、結局のところ、それは意見の押し付けにしかならない。
七海を説得することを諦めた平古場は、遠目で知念と如月の二人を黙って眺めた。
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「……顔を上げてくれねーんかや、如月」
二人きりになっても、ずっと地面を見つめたままの如月に知念はそう言葉をかけた。ぴくりと彼女の体は反応したものの、気まずいのか顔を上げる気配は無い。