第20章 第二十話
涙を流しながら、七海は精一杯の笑顔を浮かべている。それが強がりだと、誰の目にも明らかだった。
そばで知念と七海の姿を見てきた平古場にとっては、七海がそこまでして我慢する必要性を感じられなかった。
「辛い時に支えてやったのは、柊だろ。本当に、いいのか? 自分の気持ちを押し殺してまで、優しくならなくてもいいんだぞ」
「優しく、なんかないよ、私」
七海はかぶりを振って、一度地面に落とした視線をゆっくりと平古場の方へと向けた。乾ききっていない涙の痕が光る。赤くなった七海の目が、じっと平古場を見つめてきた。
「優しくなんかないの。知念君と私は、お互い傷をなめ合ってただけなんだよ。私は知念君を支えてなんかない…知念君に寄りかかってただけだよ」
「そんなこと、ねーらん!」
平古場が大きく声を上げると、七海はまたゆっくりとかぶりを振って、平古場の言葉を否定した。
「美鈴が突然いなくなって、がらんどうになったところに、たまたま私がいただけなんだよ。反対に私の空っぽの部分に、知念君がいただけ。私は、美鈴の代替品だったの。だから、美鈴がいるなら、私はもう」
「寛はそんなこと思ってねーど! そんな気持ちで柊と付き合い続けるはず、ねーらん……!」
「……ううん。知念君もそう思ってたと思うよ。……だって、知念君、私を通して、ずっと美鈴の姿を見てた。ずっと、私とあの子を比べてたの、平古場君も気付いてたでしょ?」
否定の言葉を口にしようと開きかけた平古場だったが、開きかけた形のまま、言葉を失ってしまった。知念が七海の中に如月の姿を見ていたことは、平古場にも分かっていた。
けれどこのまま如月が現れなければ、二人はそれすらも乗り越えていったはずだ。