第20章 第二十話
強い口調で如月に迫る平古場を、七海が身を挺して止めにかかった。平古場の目に浮かぶものを見て、如月は改めて自分がしてきたことがどんなに酷い事だったのか思い知らされた。
もしかしたら、知念や七海本人になじられるより、如月の心に響いたかもしれなかった。
「平古場クン。何度も言わせないでください。これ以上は俺達が踏み入る領分じゃない。…二人で話をさせてあげないと」
「……っ」
再度、木手が静かに口を挟む。平古場は険しい顔をしたまま、木手と七海に連れられてその場を離れて行った。その場に残されたのは知念と如月の二人だけだったが、如月をじっと見つめる知念に対して、如月は地面に視線を落として顔を上げようとしないでいた。
***********
「もう、平古場君怖すぎ! あんなに怒鳴らなくたって、いいのに。折角の再会が台無しだよ」
どこかおどけたように言う七海の姿に、平古場は違和感を覚えずにはいられなかった。彼女が無理をして明るく振舞っていることは分かっていた。しかし平古場にはどうして七海がそんな態度をとるのか、いまいち理解できずにいた。
「やー、いいのか?」
「…何が?」
返事に少しだけ間が空く。七海は平古場の言わんとしていることを何となく感じ取ってはいるようだった。けれど自分からは決して、口にすることをしなかった。
「何、って……寛のこと。…今は、やーの彼氏だろ?」
平古場の言葉に、それまで明るかった七海の顔が一気に曇る。決して七海本人が口にしなかったことをズバリと言ってのけた平古場に、少しだけ恨めしそうな顔をしながら七海は答えた。
「…ん。でも、見てたでしょ、平古場君も。私、あの子がいるなんて全然気が付かなかった。でも、ひろ…知念君は気が付いたんだよ。気付いて、飛び出して行った。それが、彼の答えだと、私は思うの」
「…やーの気持ちはどうなる」
「私の気持ち? 私は、二人が幸せなら、幸せだから……」
「それ、本心か? 幸せなら、なんで今泣いてるやっし」
七海の瞳からは大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちていた。それは幸せだから流す涙には、平古場には到底思えなかった。
そうまでして身を引く彼女の姿勢が平古場には理解できないでいた。
「これは、嬉し涙だよ。知念君と美鈴がやっと出会えたんだもん」