第20章 第二十話
二年半、会えないでいた間に、自分も美鈴も随分と変わってしまった。美鈴はどこか垢抜けた都会の少女になっていたし、自分だって中学の時より身だしなみに気を使う様になったから、今日だってほんの少し化粧をしている。
見た目が変わっていくように、それに伴って中身も変わっていくのかもしれない。
二年半。過ぎてしまえばあっという間の時間だった。
だけど、その時間は、人を変えるのには十分すぎる時間なのかもしれない。
それでも、変わらないものもある、と七海は思っていた。
目の前のコートでひらりひらりと舞う様にラケットを振る、知念の姿を目で追いながら、七海は美鈴に語り掛ける。
「…知念くんね、ずっと美鈴のこと想ってるんだよ。中学の時からずっと。凄いと思わない? 美鈴なんか連絡一つよこさないでいたのにさ」
「……」
隣で試合を見つめている如月は七海の言葉に黙ったままだ。如月にだって、言い分があることは七海は重々承知していた。それでも、長い間返事一つよこさなかった友人に、嫌味の一つくらいは言ってやりたかった。
返事をよこさなかった如月のせいで、知念がどれだけ苦しんだか。自分がどれだけ苦しんだか。
そのおかげで知念と付き合えることになったけれど、七海と彼氏彼女の関係になった今でも、知念の中の如月は消えることなく、逆にその存在を大きくしていったのではないかと、七海は内心感じていた。
それが、知念にとっても七海にとっても、どれほど苦しいことだったか。七海は如月に全部打ち明けるつもりはなかったが、それでも隠し切れない苦しい想いが言葉の端々に滲み出て行くのを止められなかった。
「……連絡しなくて、ごめん。…私も、本当はずっと……」
「待って。そこから先は私じゃなくて、知念君に話さないといけないんじゃない? 私も連絡なくて、辛かったけど…知念君が一番辛い思い、してきたんだよ」
ぐっと唇を噛みしめる七海に、如月は何も言えずにまた黙り込んでしまった。
あの人だかりの中で、目深にかぶった帽子も、伊達眼鏡も、知念の前では意味をなさなかった。もう二年以上会っていないのに、確信をもって自分の名を叫んで追いかけてきた知念。その心中を思うと、如月は何も言葉にすることができないでいた。