第20章 第二十話
「やー、テニス部のマネージャーしてたんだな」
「……うん。……やっぱり、忘れられなくて。知念くんの、テニスしてる姿が。東京に来て、全部忘れようと思ったのに、出来なかった。そんなに簡単に忘れられる想いじゃなかったの」
「じゃあ、なんで返信くれなかったんばぁ?俺、ずっと待ってたんど」
「それは……」
「ひろ…っ、知念君!もうすぐ試合始まっちゃうよ!」
知念と如月の会話にまた割って入る者が現れ、二人は声のした方に目をやった。
肩で息をしながら二人を見つめていたのは、柊七海だった。
知念と如月に視線を交互にやりながら、七海は二人の元に駆け寄ってきた。
「知念君、急がないと!試合棄権になっちゃう!」
「わっさん、すぐ行く。柊、如月ぬくとぅ(如月のこと)、頼んだ」
七海に急かされて、知念は急いでコートへと戻って行った。
掴んでいた如月の手を七海にバトンタッチして、自分の試合が終わるまで逃がさない様に、としっかり念押しをして。
知念から如月の監視を引き継いだ七海は、久方ぶりに会うかつての親友を内心複雑な想いで見つめていた。
バツが悪そうに唇を噛みしめたまま無言の如月に、七海は慎重に言葉を選びながら話しかけた。
「……元気だった?美鈴」
「……うん……。黙っていなくなって、ごめんね……連絡もしないで、ごめん……」
「その話は後でゆっくりするとして、知念君の試合!応援しに行くでしょ、当然。行くよ、美鈴!」
感傷に浸る如月の手を七海は力強く引っ張って、有無を言わさず如月を知念が試合を行っているコートへと引きずって行った。
ボールを打ち合う音があちこちから聞こえるコートの間を走り抜けて、二人が知念達の元へたどり着いた時には、試合はすでに知念達が1ゲーム取ったところだった。
「もう1ゲーム取ってる……」
「当たり前でしょ。誰が試合してると思ってんの?」
七海は憤慨したように、如月を横目で睨む。もちろんそれは本気で怒っているわけではなく、冗談交じりで七海はそうしたのだが、如月は申し訳なさそうに俯いてしまった。
離れてしまった間に、冗談も通じなくなってしまったのか、と七海は思った。