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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第20章 第二十話


けれど一体どんな顔をして、彼の方を振り向けばよいのだろう。
嬉しさや罪悪感や後悔がない交ぜになって、如月の心中はぐるぐると渦を巻いて複雑な色をしていた。

「如月、ずっと、会いたかった」

如月は振り向けないままじっと足元の地面を見つめながら、知念の声を聞いていた。
知念もまた、振り向かない如月の背をじっと見つめながら、彼女に想いをぶつけた。

「ずっと会いたかったさぁ…ずっと声が聴きたかったさぁ…」

ぎゅっと、手首を掴む知念の手に力が入る。
もう決して離さない、と知念が言っているように如月は思えた。

「如月、こっちを向いてくれねーんかや?やーの顔が見たいんばぁ」

頭上高くから降ってくる、あの頃と変わらず優しい知念の声は、如月の胸にゆっくりと染み入っていった。
唇を噛みしめても溢れてくる涙を止めることはできなかった。
ボロボロと零れ落ちる大粒の涙が、地面にぶつかって染みをつくる。

「……今更、知念くんに、合わせる顔、ない……」

震える小さな声だったが、知念の耳にはしっかり届いていた。
あの頃と変わらず白い肌と、日に焼けた茶色の髪、甘いシャンプーの香り。
知念の心は一気に中学の頃へと引き戻され、切ない思い出も共に知念の胸に鮮やかによみがえった。
会いたいと、触れたいと願った相手が今目の前にいる。
その事実だけで知念の胸はいっぱいになった。

「でも、こうやってここにいてくれてるやっし」
「それは、知念くんが離してくれないから!」

言って如月は思わず知念の方を振り返った。
如月が見上げた先には、彼女をじっと見据える知念の顔があった。
知念の顔は、開会式で見たよりも、ずっと大人っぽく見えた。

「離す気なんてねーんど」

そう言う知念の声は先ほどと変わらず穏やかなものだったが、そこには強い意志が感じられた。
如月はその力強さに、知念の目から視線を逸らせないでいた。

「どうして……?私、知念くんに酷い態度とってばっかりだったんだよ……?なのに、どうして」

病院に面会に来た知念を拒絶したこと。
その後何も言わず知念の前から姿を消したこと。
ずっと連絡をくれていたのに返事をしないでいたこと。
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