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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第20章 第二十話


 隣のコートではまだ試合が行われている中、試合を終え挨拶を交わした如月達は、これから当たることになるライバル達の視察に赴くことになった。

「よし、美鈴は俺と比嘉高の視察な」
「えっ?! 比嘉?」

柿谷の言葉に如月は思わず驚いてしまった。
そんな如月に柿谷は不思議そうな顔でこう返した。

「なんだよ、お前も気にしてただろ、比嘉。ほらビデオ任せたぞ」

言って手渡されたビデオカメラを如月が受け取ると、半ば柿谷に引きずられるように比嘉のいるコートへと如月は連れて行かれた。
コートの近くで試合を見ようとする柿谷を如月がなんとか制して、コートを囲む観衆の後ろの方に如月達は腰を下ろした。
帽子を深く被りなおして、如月はビデオカメラを回し始めた。
カメラの画面にこれでもかと顔をくっつける如月を横目に見て、柿谷は苦笑した。

「美鈴、そんなに覗きこまなくても。目が悪くなるぞ」

柿谷にそう言われても、如月は大丈夫、と答えて画面から顔を離すことはしなかった。
なるだけ顔を隠して、少しでも知念達に気が付かれる可能性を少なくしたかった。
まさか目の前にいるだなんて、向こうは思いもしないだろうからそうそう気が付かれることもないだろうが、念には念を入れておきたいと如月は思ったのだった。

試合の流れは比嘉が優勢だった。
コートでは中学の時と変わらずバイカラーのキャップを被った甲斐が、いまだ右手で試合をしていた。
表情には余裕の笑みが浮かび、この試合が完全に甲斐優位に進んでいることを示していた。

「やっぱり強いな。毎年全国に来てるだけのことはある。あのボールに追いつくスピード、本当に厄介だな」
「…そうだね」

言葉少なに柿谷に返事をして、如月はカメラの画面に意識を集中させた。
コート全体を映すようにカメラの焦点をあわせている為、コートを取り囲むように甲斐を応援している比嘉高メンバーの姿が、どうしてもちらちらと視界にうつる。

その中でも頭一つ飛びぬけている知念の姿はどうしても目立つ。
嫌でも目に入ってしまう知念に、如月はコートの試合よりもそちらの方に意識を取られてしまうのだった。
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