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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第20章 第二十話


満面の笑みでそう言う柿谷に、如月は曖昧な笑顔を返した。
応援頼むな、と肩を叩かれながら柿谷に言われ、如月は小さく「うん」と返事をした。


**************

全国大会当日。
気持ちの整理のつかないまま、如月は全国大会が行われる会場に足を運んでいた。
いつもは被らない帽子を目深に被り、家にいる時以外はめったにかけない眼鏡もかけて、会場の隅で小さくなって開会式の様子を窺っていた。

普段と違うその装いにテニス部員達は口々に何かあったのか如月に尋ねてきたが、寝不足で酷い顔だから、と嘘をついて誤魔化した。

開場の中央に続々と選手たちが行進して入場していく。
色とりどりのユニフォームが列をなしていく中、懐かしい色のユニフォームが目に入る。
中学の時と変わらない色のそのユニフォームの学校は、知念達のいる比嘉高校だった。
鮮やかな紫色が日に焼けた彼らの肌に映えている。
相変わらず、すらりとした体型でゆっくりと歩く知念の姿が、如月の目に焼き付いて離れなかった。

きりりと前を見据えた知念の顔は、中学の頃よりさらに大人っぽく、精悍な顔つきになっていた。
すらりと伸びた手足も、あの頃より逞しく見える。
昔と変わらないのは少し猫背気味なところだった。

如月の胸はぎゅうっと締め付けられたように苦しくなった。
自分勝手にさよならを告げた、大好きだった相手が目の前にいる。
幾分か美化されたあの頃の思い出が、如月の頭の中をめぐった。

開会式中、如月の視線はずっと知念に注がれていた。
目深に被った帽子の下からでも、周囲から頭一つ飛び出た知念の姿はよく見えた。
決して振り向くことのない知念の後ろ姿を見つめながら、如月は唇をぎゅっと噛みしめた。

開会式が終わり、如月はテニス部員達と合流して第一試合の行われるコートへと向かった。
気持ちはまだふわふわとしていたが、今は目の前の試合に集中しなければ、と如月は深呼吸をして頭を切り替えようとしていた。

初戦の相手は、如月達と同じく全国初出場の学校だった。
シングルスもダブルスも危なげなく勝利をおさめ、終わってみれば如月達のストレート勝ちという結果だった。
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