第20章 第二十話
「日程、きたぞ」
柿谷から手渡された、全国大会の日程表を受け取ると、如月はすぐに「比嘉」の文字を探した。
隣では柿谷が1回戦の相手について何事か語っていたが、今の如月の耳には入っていなかった。
他の学校と同じ印刷がされているはずなのに、「比嘉」の文字だけ如月の目には黒くハッキリと映っていた。
比嘉の出場選手の中には知念の名前もしっかり載っていた。
一点を見つめたまま動かなくなった如月を見て、柿谷は何か気になる学校でもいるのか、と声をかけながら如月の手元の冊子を覗き込んだ。
「比嘉?ああ、沖縄の。あそこ強いんだよな。……そんなに気になるのか?」
冊子に穴が開きそうなほどじっと比嘉の文字を見つめる如月の姿に柿谷は首を傾げた。
柿谷の声に、如月はハッと我に返り、冊子を静かに閉じて柿谷に返した。
「あ、う、うん…ちょっとね」
言葉を濁す如月を訝しみながらも柿谷は冊子をパラパラとめくり、先ほど如月が凝視していた比嘉のページに目を落とした。
トントンと指で差しながら、柿谷は如月に冊子を見せた。
「特にこの知念と平古場ってダブルスペアが厄介らしい。知念ってやつは2m近い長身だしな。パワーもそこそこあるし、ボールに追いつくスピードも速い。初戦で当たらなくて良かったよ」
柿谷の指先に印字された「知念」の文字が如月の目に嫌でも入り、如月の頭の中には知念の顔が浮かんできていた。
物知り顔で知念のことを雄弁に語る柿谷の言葉は、どれも如月にとっては既知の至極当たり前の事ばかりだった。
柿谷以上に如月の方が知念の事を知っているのは明らかだったが、如月は柿谷の言葉に黙って頷いているだけだった。
「勝ち進めば3回戦で当たるな、比嘉」
トーナメント表を見ながら柿谷がそう言うと、如月は体を強張らせた。
知念達と対峙することになることは、ある程度覚悟していたものの、実際にそう言われると如月の心は揺れるのだった。
「まあ美鈴がついてるから大丈夫だよな!勝利の女神だもんな、お前」