第20章 第二十話
関東大会準決勝。
如月がマネージャーを務める男子テニス部は、創立以来初めて団体2位という成績を残し、全国大会へと駒を進めることになった。
沸き立つ歓声の中で、一人如月だけが心から喜べずにいた。
全国大会。そこにはあの知念達も出場する。
試合の結果によっては直接対決することになるだろうし、それでなくとも会場のどこかで出会ってしまう可能性もある。
いっそ体調不良を装って、全国大会を欠席してしまおうかとも如月は考えた。
けれど今まで一緒に頑張ってきた選手たちが全国の舞台で活躍するのを応援したい気持ちもあった。
全国が決まって盛り上がる今も、自分の事を一緒に戦ってきた仲間だと言ってくれる、部長を始めとするテニス部員達に、自分勝手な都合で全国に行かないというのはなんとも失礼なことのように思える。
出来るだけ目立たない様な格好で、大勢のテニス部員の中に紛れていれば案外なんとかなるかもしれない。
勝ち進んで当たることも無いとは言えないが、いちいちマネージャーにまで気を回すこともないだろう。
自分がテニス部のマネージャーをやっていることは、知念達の中で知る者はいないのだから、気が付くこともないのではないか、と如月は考えることにした。
お祭り騒ぎのテニス部員達の中、どこか浮かない顔でみなに応える如月の姿に、部長の柿谷は心配そうに声をかけた。
「美鈴、どこか調子悪いのか?」
「えっ?ううん、大丈夫だよ?」
「そうか?それにしてはあんまり盛り上がってないような気がするんだけど」
「そんなことないよ。びっくりしてて感情がついてこないっていうか…」
すらすらと口から出る嘘に、如月は自分でも驚いていた。
この数年で嘘をつくことだけは上手になった。
自分の心に嘘をつき続けた結果、他人に対しても嘘と気取られないように振る舞える技術を身に着けてしまったのだった。
如月の過去を知る者はここには誰もいない。
だからありのままの自分でいてもいいはずなのに、ここでの如月は本来の自分とは少し違った自分になっていた。
本当の自分は、あの日、沖縄に置いてきてしまったのだろう。
知念に対する本当の気持ちと一緒に。
如月をじりじりと照り付ける太陽は、沖縄のそれと少しだけ似ていた。