第19章 第十九話
知念の質問に、木手は一瞬言葉を詰まらせた。
それは木手もいまだに如月のことを忘れられていない、ということを言外に示しているようだった。
けれども木手は不敵な笑みを浮かべて知念に答えた。
決して自分の心の内を、知念に見せない様に、悟らせない様に。
「今、目の前のことに集中するだけですよ、知念クン」
木手の言葉に知念は、なるほどな、と小さく呟いた。
「けど、その答えじゃ…やーも、まだ…」
「さぁ。そろそろ俺達も向こうに行きましょうか」
知念の言葉を遮るように木手は言って、知念の返事を待たずに波打ち際で遊ぶ皆の元へとゆっくりと近づいて行った。
本当にプライドの高い男だ、と思いながら知念も木手の後に続いたのだった。
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水平線の彼方に夕日が沈むのを見送って、ようやく彼らは海から引き上げることにした。
はしゃぎ過ぎてずぶ濡れになった甲斐と平古場が同時にくしゃみをして、木手から冷たい視線を送られることになった。
「…夕飯の前に入浴を済ませることにしないといけませんね。誰かさん達のせいで」
スケジュールの変更を余儀なくされ、いささか機嫌の悪そうな木手に甲斐と平古場は気のない謝罪をよこした。
一度甲斐の家に戻って着替えを準備してすぐに近所の銭湯に皆で足を運び、開店したての一番風呂を味わった。
設備にかなりの年季を感じる古びた銭湯ではあったが、近所の人が足しげく通う人気のこの銭湯は、土日はもちろん平日も開店から20分もするとお客でいっぱいになる。
それを知っていた甲斐は、木手に「早く入れて結果オーライやっし」と笑顔で言うも、木手に呆れたため息をつかれてしまった。
みなが湯船に浸かって体が芯から温まってきた頃、入浴客が増えだした。
そろそろ上がりますよ、と木手に促されて皆湯船から上がった。
ここの銭湯にはドライヤーは置いていなかった為、皆タオルで髪の水気をふき取っていた。
田仁志と甲斐は豪快にガシガシとタオルで頭を拭いたが、木手と平古場と知念は丁寧にタオルで髪を抑えて水気をふき取っていた。
その様子を見た田仁志と甲斐は3人に向かって「女子か」とツッコミを入れずにはいられなかった。
木手達いわく、タオルでこするのは髪のキューティクルが痛むということらしいが、甲斐と田仁志にとってはいかに早く乾かすかのほうが重要だった。