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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第19章 第十九話


木手の示した方に目をやれば、彼女と二人で何か捕まえようと必死になっている田仁志の姿が知念の目に映った。
田仁志も中学の頃からブレることのないキャラクターで、相変わらずだばぁと知念は笑った。

「…時に知念クン。一つ確認したいことがあるのですが」
「ぬーやが?あらたまって」
「貝殻を集めるのが好きなのは、美鈴ではないですか?」
「…はぁ…?何言って…」

木手の言葉に知念は一瞬訳が分からないといった顔をしたが、次の瞬間にはハッと気が付いた。
そう、貝殻を集めるのが好きだと言っていたのは、如月だった。
学校からの帰り道に、木手と共に延々と綺麗な貝殻を探すのに付き合わされた思い出が鮮明に知念の脳裏によみがえった。

「柊クンも、気が付いていたと思いますよ。先ほどの彼女の顔を見れば、ね」

手の甲で眼鏡を持ち上げて、ちら、とこちらを見やる木手から知念は目をそらした。
木手の目が自分を責めているように感じて、見ていられなかったのだ。

「知念クン、彼女を大事にするって決めたのでしょ?だったら、いい加減忘れなさい、美鈴のことは」

ぬるい潮風が頬を撫でていく。
その中に木手のいつもの整髪料の匂いがして、知念の心は一気にあの頃に引き戻されるようだった。

「…忘れようとしてるさぁ…」

自分の口から出た言葉が自分でも驚くほど力がなく、いまだ如月の事を忘れられていないと言っているようで知念は嫌になった。

「今すぐに忘れられないのだったら、それを表に出さないことです。表に出してしまえば、柊クンを傷つけることになる」
「分かってるさぁ………なぁ、永四郎は、どうやって忘れたんだ?」

木手に言われなくても、そんなことは知念は充分、分かっていた。
しかし分かってはいながらも実行できていないのは事実で。
そこで単純に浮かんだ疑問を知念は木手にぶつけた。

あれほどまでに如月に執着していた、お前はどうなのだ、と。
どうやって振り切ることができたのか、嫌味ではなく、知念は純粋に知りたかった。
聞きたくても今まで聞けずにいた、木手の想い。
こんな機会でもなければ、この先ずっと確かめることなど出来ないだろう。
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