第19章 第十九話
ぽんぽんと七海の頭を撫でて、知念はその場を誤魔化した。
他の人間の目もあった為か、七海はそれ以上追及はしてこなかった。
ひとしきり飲んだり食べたりした後、少し休憩を挟んで皆で連れ立って、腹ごなしに海に散歩に行くことになった。
海岸沿いの堤防をふらふらとやじろべえのように歩く甲斐と、それを後ろから驚かして笑う平古場の賑やかな笑い声があたりに響く。
二人の彼女はそんな甲斐と平古場を見てクスクス笑い、木手は呆れた顔でいつまでたっても子供のような二人を見つめている。
中学の頃から甲斐と平古場はくだらないおふざけをお互いにやり合って、たまに本気の喧嘩に発展することもあった。
さすがに今日はそんなことはないだろう、と知念は思っていたが、いつもよりテンションが上がっていた為か、2人のスイッチが入るのも早かった。
「いい加減にしなさいよ、甲斐クン、平古場クン」
木手が二人に静かな声で威圧して、知念と田仁志が黙って2人の間に割って入って気の立っている2人を引き離す。
連携の取れた少年達の動きに、少女たちは圧倒されたようにその様子を見ていた。
「こんな時に喧嘩はやめれー。彼女の前やんに。かっこわるいんど」
知念がそう諭すと、甲斐と平古場は一気にそれまでの勢いを失くしてしゅんと小さくなった。
そんな2人を見て木手は深いため息をついた。
知念は吹き付ける海風を感じながら、いつまでも変わらない風景がこのまま永遠に続きそうな錯覚に陥った。
「うし!海で遊ぼうぜ!」
気持ちを切り替えてまたテンションを上げた甲斐が、一目散に海へと走って行った。
それを追うように平古場も走りだし、そんな2人を見て苦笑いしながら甲斐と平古場の彼女達も後に続いた。
ちらり、と知念を見やる七海の視線に気が付いて、知念は彼女に声をかけた。
「やーも行ってくるといいさー。やー、貝殻集めるの好きだったろ?」
「えっ、貝殻…?あ、う、うん…そうだね。行ってくるね」
七海は微妙な顔をしながらも、木手の彼女と連れ立って、波打ち際へと向かって行った。
サンダルを乱暴に脱ぎ捨てて、海へ駆け出した甲斐と平古場を、木手と知念は堤防に腰を下ろして眺めていた。
砂浜に残されたオレンジとブルーのサンダルがやけに鮮やかな色彩を放っていた。
「あれ、慧君はどこ行ったんば?」
「あっちで何か獲っているようですね」