第19章 第十九話
コップの中の麦茶を一気に飲み干すと、七海がそれに手を伸ばす。
知念からコップを受け取ると傍らのポットから麦茶をそそいで、七海はまた知念に手渡した。
「世話焼きやんに~!初々しいカップルは熱いねぇ」
知念と七海の様子を見て、平古場が面白そうに囃し立てた。
平古場の彼女が「うちらも初々しいカップルなんだけど」と呟くと、平古場は彼女の頭をわしゃわしゃと撫でた。
自分達も大概ベタベタしてるじゃないか、と知念は心の中でこっそり呟いた。
茹で上がった大量のそうめんが庭に到着し、いよいよそうめん流しが始まった。
田仁志は一人で大量に取ってしまう為、毎年後ろの方に並ぶように木手に言われるのだが、なかなか回ってこないそうめんに焦れて縁側に置かれたザルから直接食べるのがお決まりだった。
今年はそんなやり取りすら面倒だったらしく、流しそうめんには参加せず一人黙々と縁側でそうめんを食べていた。
その横で田仁志の彼女はせっせと彼の為にそうめんを田仁志の皿に追加していた。
お前も食べろよ?と皆に声をかけられ、田仁志の彼女は笑顔でありがとうと答え、またせっせと田仁志の皿にそうめんを追加した。
どうやら彼女にとってはこの一連の作業が楽しくて仕方ないようだった。
「変わってるんばぁ~。でもま、だから慧君の彼女なんだろうなぁ」
「やんやー」
甲斐と平古場は縁側の2人を眺めながらそんなことを呟いた。
「柊、食べてるか?」
先ほどから追加のそうめんを取りに行ったり、そうめんを流したり、何かとせわしなく動いている七海に知念は声をかけた。
七海の持っていたそうめんの入ったザルを取り上げて、七海に食べる側に回るように促すと、彼女はありがとう、と微笑んだ。
「人のことばっかり考えるんだな、やーは。そういうところは似てな…」
言いかけて知念は口をつぐんだ。
思わず口から出そうになった『如月』の名前をすんでのところで飲みこんだ。
けれど不自然に会話をやめた知念に七海は訝しげな表情で彼を見つめた。
(なんで如月と比べる必要がある?いい加減あいつのことを考えるのはやめにしないと…)
何度振り払おうとしても、ふいに脳裏によぎる如月の姿に、知念は唇をかみしめた。
「寛、君…?」
「…悪い、なんでもない。いっぱい食べろ」