第19章 第十九話
(考えない、考えない。今を見つめていればいいのよ、七海)
心の中で自分にそう言い聞かせて、七海は満面の笑みを知念に向けた。
そんな七海を見て、知念は優しげな瞳をして七海に笑顔を返した。
「おー!遅かったなぁ、二人とも!」
大きな声で知念と七海を出迎えてくれたのは、甲斐裕次郎だった。
いつもの臙脂と白のバイカラーのキャップを真横にかぶり、人懐こい笑顔で二人に近づいてきた。
「わっさん。途中で買い物してきたんばぁ。裕次郎、これ、おばさんに。わんのおかぁから」
「おー、サンキュ!そんな気遣わなくてもいいやんに」
大きく丸々としたスイカを甲斐に手渡して、知念は手首を軽く振った。
朝出がけに玄関先で母親から手渡されたスイカは、今日の怪談パーティーに集まる人数を見越してだろう、知念の母がとびきり大きいものを用意してくれていた。
そのおかげで知念の手は自分の家から裕次郎の家に着くまでに限界を迎えそうになっていた。
ようやくスイカの重さから解放された知念は、それまでスイカを握っていた手で七海の手をそっと握った。
ふいに訪れた知念の手の熱に、七海の心臓はどくんと小さく跳ねた。
「おーおー、おふたりさんお熱いことで!」
手をつないだ知念と七海の姿を見つけて笑顔でそう囃し立てたのは平古場だった。
隣にはあれからすぐ作ったのだろう彼女と思われる女の子が寄り添うように立っていた。
目鼻立ちのはっきりとした美人の彼女を自慢するかのように、平古場は知念と七海に彼女を紹介した。
よろしく、と挨拶を交わして、家に上がり、通された大広間で知念と七海は隣り合って腰を下ろした。
広間には知念達以外の他のメンバーがすでに集まっていて、めいめい会話をして賑やかにしていた。
七海と平古場の彼女以外はほとんど顔馴染といってもいいくらいの間柄で、その中に身を置く七海は少し肩身が狭そうに、小さくなっていた。
それに気づいた木手の彼女が七海に声をかけ、二人は自然と会話を始め、弾みだした会話を続けながら、二人は甲斐の母の手伝いをしに台所の方へと向かって行った。
なんとなしにその様子を眺めていた知念は、前方からそそがれる視線に気が付いてそちらに目をやった。
使いこまれた樫のテーブルを挟んだ真向いに座る木手が、じっと知念を見ていたのだった。
「…君も、ようやく、ですか」