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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第19章 第十九話


七海の笑う姿に、知念は如月の姿を知らず知らずのうちに七海に重ねていた。
仲の良い親友だった二人は、笑う時の顔がどことなく似ていた。
一度軽く下を向いて笑い出す癖は、長い間親友として一緒に過ごしているうちにうつってしまったのだろうか、と知念は思った。

如月に『さよなら』とメールで告げられたあの日から、如月のことを綺麗サッパリ忘れてしまいたかった知念だったが、揺らぎながらも如月の事を想い続けた2年半という月日の重みはそう簡単に彼女のことを忘れさせてくれそうになかった。
気を抜くとすぐにでも如月のことを考えてしまう自分の女々しさに、知念はほとほと愛想を尽かしていた。

(如月がどんな顔で笑うかなんてことさえ、忘れかけていたはずなのに。なんで今、こんなに鮮明に色々思い出してしまうんだ…)

如月と知念を繋いでいたメールという細い糸は切れてしまったものの、今知念の目の前にいる「七海」という存在が、知念の心の中の如月と知念を繋ぎとめているようだった。
七海と関わっている限り、如月のことを忘れるのは難しそうだった。
しかしそれは七海とて同じだろう。
それでも七海は知念と共に時を過ごすことを選んだのだ。
自分だけが辛いのではない。
時間をかけて、ゆっくりと、如月のことが薄く消えていくのを待つしかないのだ、と知念は自分に言い聞かせた。

「なぁ、寛。今年も一発怖いの頼むぜ!」

平古場が、心ここにあらずといった知念の背中を思いっきり叩く。
ばしん!と大きな音がして、知念は背中に広がるジンジンとした痛みに顔をしかめた。
何するんばぁ、と知念は口を開きかけたが、平古場の目に宿るものを見て、彼が自分が何を考えていたのか察しているような気がして口をつぐんだ。
はぁ、と深いため息をついて知念は平古場に口で反撃をした。

「夜中にトイレに起こすのだけは勘弁してくれ」

知念の言葉に七海が目を丸くして、平古場くんって怖がりなんだね、と笑った。

「ち、ちげぇよ!寛の話がでーじ怖いんばーよ!」

自分で怖い話を催促しておいて何を言うか、と知念に突っ込まれた平古場を見て、七海はまた笑った。
そんな彼女につられて、知念と平古場も声を上げて笑い出した。
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