第19章 第十九話
しばらく平古場の指す「アレ」が何の事であるか思案していたが、頬に生ぬるい風を受けて、知念の頭に一つのものが浮かんだ。
「アレ?…あぁ、アレか。今年もやるのか?」
毎年この時期になると平古場がやろうやろうと言い出す、中学時代から続く恒例の夏のイベント。
知念の頭には毎年懲りもせずに自分から言い出して企画する癖に、知念の話に恐怖から涙を浮かべる平古場の姿が思い浮かんだ。
「当たり前やっしー!みんなで集まれるのも今年で最後かも知れないんだぜ」
「まぁ、確かにな」
今年、知念達は高校生活最後の年だ。
来年はそれぞれの道を進むことになる。
家業を継ぐ者、進学する者、就職する者…今まで同じ道を歩んできた仲間達だが、これからは別々の道を進んでいく。
一度離れてしまったら、またこの地で学生時代と同じように集まることは平古場の言うように、そう容易ではないだろう。
年を重ねるごとに速さを増していく時の流れに、知念は無情さを感じずにはいられなかった。
「今年はみんなの彼女も交えてパーッとやろうぜ」
満面の笑みでそう言う平古場に、知念は即座に平古場に疑問をぶつけた。
「お前、別れたんだろ」
「すぐ出来るし!なぁ、七海ちゃんも来てくれるよな?」
平古場の返事に、ああそういえばこいつはそんな奴だったな、と知念は思った。
その気になれば明日にでも彼女ができているだろう。
平古場は知念の言葉など意にも介さず、七海ににこやかに話しかけていた。
「私?その前にアレって何のこと?」
1人だけ話についていけていなかった七海が、平古場に名指しされてようやく口を開いた。
七海に尋ねられてそこでようやく知念と平古場が「アレ」について説明を始めた。
「怪談パーティー。中学の時から毎年夏にやってるんばぁ。裕次郎の家にみんなで泊まってな」
「花火やったり、バーベキューやったり、楽しいんど!」
知念と平古場の言葉に、七海の顔がぱあっと明るくなった。
二人がさも楽しそうに説明するので、参加したことのないイベントではあったが、なんとなく想像をして七海の心は躍った。
「私も参加していいの?」
「もちろん。今年はみんな彼女いるから盛り上がること間違いなし!」
ぐっと親指をたてて言う平古場に、七海はクスクスと笑った。