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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第19章 第十九話


「凛、柊を困らすな」
「おぉ、寛、顔がこえぇーこえー!へいへい、お邪魔虫は退散しますよ」

ひらひらと手を振って、平古場は二人に背を向けた。
ちら、と目線だけ二人に向けて、お幸せになぁ、と平古場は言った。
去って行く平古場の背を見送りながら、知念は小さくため息をついた。

「悪い、あいついつもあんな感じで」
「ううん、大丈夫。ていうかごめん、どこがいいって聞かれて即答できなくって」
「いや、別に気にしてない」
「いいところが思いつかなかったって訳じゃないんだよ?ただ口にするのが恥ずかしくて…」
「…あぁ、分かってる」

また顔を赤くする七海が可愛らしくて、知念は優しく微笑んだ。
その微笑みに七海はどきりとして、収まらない顔のほてりにぱたぱたと手で風を送った。
七海の何気ない仕草の一つ一つが可愛らしく思えて、知念の胸はほんのりと温かくなる。
穏やかな日常に、知念の心はようやく落ち着きを取り戻しつあった。

「…帰るか」
「うん」

昔、如月と帰ったのと同じ道を歩いているのに、七海との帰り道は如月のそれとはまるで違っていた。
如月は何くれとなく話しかけてきてはそれに知念が相槌を打っていたが、七海は如月ほど熱心に知念に話しかけてはこなかった。
時折会話はするものの、一緒にいる時間を噛みしめるように、半分以上は黙ったまま知念の隣を静かに歩いている。
七海がどう思っているかは知念にはまだ分からなかったが、少なくとも知念にとってはそれは居心地の悪い沈黙ではなかった。

同じクラスなのだから共通の会話が無いわけではなかったが、知念にとっては取り立てて会話にするようなネタは日常生活において見つけられなかった。
付き合うことにはしたものの、七海が望むものを知念は察知することが出来ないでいた。
あの時、如月に対しては考えなくても体が頭が勝手に動いていたのに、と知念は複雑な思いでいた。

二人を包む沈黙を破ったのは、先ほど二人を追い越して帰って行ったはずの平古場だった。
すごい勢いで元来た道を戻ってきたのだろう、再び二人の前に姿を現した平古場は、少しだけ息をきらしていた。

「…どうしたんだ、凛」
「……そ、そろそろ、アレの季節だな、って思い出して」

肩で息をしながら、平古場が言うと、知念はちらりと右上に視線をやった。
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