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純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第18章 第十八話


「何よ、これ。寛君、こんなので終わらせるつもり?!今すぐ電話して!ちゃんと話さなきゃダメだよ!!」

七海はあの事件の日以来、知念が今までどんなに苦しんできたかを傍で見てきた。
如月のことを忘れたかのように見えることがあっても、知念の胸の奥底にはいつだって如月の姿があった。

知念のスマホを七海は勝手にいじって、如月に電話をかけた。
プルルルとコール音の鳴り出したスマホを七海は黙って知念に押し付けた。
耳に鳴り響く無機質なコール音に、知念は耳を澄ます。


――如月に何を伝えればいい?
自分から彼女を切り捨てたようなものなのに、一体何と話せばよい?


知念の頭の中はぐるぐると回って、うまく言葉がまとまりそうになかった。
プッ、とコール音が切れる音がして、知念の口は咄嗟に如月の名をかたどっていた。
けれどそれは如月の耳に届くことはなく、無情にもプー、プー、という電話の切れた音が知念の耳にやけに大きくこだました。
耳元からスマホを外し、ディスプレイに目を落とす。
力なくスマホを見つめる知念の姿に、七海はぐっと唇をかみしめてもう一度彼の手からスマホを取り上げて、如月に電話をかけなおす。

しかし知念のスマホから聞こえてきたのは、携帯の電源が入っていないか電波の届かない状況にあるか、ということを知らせる音声案内の声だった。

「なんで…こんなの一方的すぎるでしょう、美鈴…」

――私も、寛君も、あなたのことをずっと忘れられないでいるのに。
あの日からずっと時が止まったまま、あなたのことを想っているのに。
『さよなら』の一言だけで片づけられるようなそんな軽い想いじゃないはずなのに。
あんなに毎日笑いあって、励まし合って、過ごしていたのに。


過ぎた日々を思い、七海の目にはうっすらと涙が浮かんできていた。
つんと鼻の先が痛くなって、こらえきれなくなった涙がボロボロと七海の両の目から零れ落ちていく。
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