第18章 第十八話
彼女の影がスマホを覆い、ゆっくりと拾い上げたそれを七海は、はい、と微笑んで知念に渡した。
ありがとう、と返して、震えの止まったスマホを受け取る。
メール受信を知らせる青いランプが点滅し、知念はまさかと思いつつ、メールボックスを開いた。
新着メールを開けば、送り主の名前は「如月美鈴」と表示された。
心臓の鼓動がどくんどくんと早くなり、いやに大きく聞こえるような気がした。
2年半、メールを送り続けて初めて返ってきた如月からのメール。
彼女は一体何と知念に送ってきたのだろう。
見てしまえば、良くも悪くも今の状況は変わってしまう。
恐る恐るメールに書かれた文字に知念が目をやると、そこにはたった一言、『さようなら』と書かれてあるだけだった。
他には何も書かれておらず、知念は何度もメールを見返した。
「…そうかよ…」
これでさっぱり如月のことを断ち切れる。
どこかでそうしたいと願ったから、自分から『迷惑ならメールを送るのをやめる』と彼女に伝えたはずなのに。
なのに、なぜ、こんなに胸が苦しいのだろう。
2年半もの間待ち続けた、如月の最初で最後のメール。
たった一言で片づけられてしまった知念の想い、如月の想い。
(あいつにとって、俺はそれだけの人間だったってことかよ…)
ただ一言で関係を終了させてしまえる程度の想いだったのか、と知念はがくりと肩を落とし、その場にしゃがみ込んだ。
目の前で知念がそんな風に力なく項垂れるものだから、七海は一体何があったのかと知念に声をかけて近づいた。
彼の手の中のスマホの画面にちらりと見えた『さようなら』の文字に、もしかして、と七海は口にした。
「…如月から、メールが来たんばぁ…でも…」
鉛のように重たくなった腕をゆっくりと持ち上げて、知念は七海にスマホに浮かぶ文字を見せた。
七海はそっとスマホを知念の手から受け取って、如月から届いたというメールをまじまじと見つめた。
親友だと思っていた自分にも一切の連絡もせず沈黙を守っていた如月が、ようやく送ってきたメール。
たった一言だけ書かれたメールに、七海の心にはふつふつと怒りが湧き上がった。