第18章 第十八話
「さよなら、知念君」
静かになった携帯をもう一度カバンに仕舞いこんだ。
急いで履いた靴は踵を踏まなければ歩けなくて、不安定な状態で如月は家路を急いだ。
踏み出すたびにカポカポと音がして、靴が脱げてしまいそうになるのも構わず、ただ前へ前へと進む。
家に着くなり階段を駆け上がって、自室の扉を乱暴に開いて、そのままの勢いでベッドに飛び込んだ。
真新しい洗濯されたシーツに顔をうずめて、如月は嗚咽をもらすのだった。
如月の机の上に置かれた写真の中の知念は、あの日と変わらず薄く微笑んで如月を見つめていた。
写真の中では、如月も知念の隣で嬉しそうに笑っていた。
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送信ボタンを押してから、やはり最後の一文は余分だったと、知念は焦って送信中止のボタンを何度も押した。
しかし無情にも送信は止められず、「送信完了」の文字が浮かぶディスプレイに知念はため息をついた。
「あぬ言葉…あいつを責めてるのと同じやっし…」
自分で書いて送ったとはいえ、知念はそのことを後悔していた。
如月がなんと返事をしてくるか分からなかったが、彼女の返答によっては知念と如月の繋がりは立ち消えてしまう。
今まで一度も返事は返ってきたことはなかったから、今回も返事はないかもしれない。
むしろ返事がない可能性の方が高いだろう。
余計な一言を書いてしまったが、もし如月から何の返事もなければ、「知念のメールを迷惑に思っていない」と如月が考えていると受け止めようか、と知念は思った。
けれどあんな一言を書いてしまったのは、心のどこかで「もう如月のことを断ち切りたい」と自分が思っていたからではないか、とも知念は思った。
(ずるいな、俺…断ち切りたいなら自分でそう決めたらいいだけなのに…如月にそれを押し付けるなんてな)
スマホの画面をじっと睨みつけて、知念は顔を出した自分のずるさと弱さに怒りを向けた。
ふいにブルブルと震えだしたスマホに驚いて、知念の手は硬直してそこからスマホはするりと床に落ちていった。
派手な音をたてて床をすべるスマホを追いかけたが、それを拾い上げたのは知念ではなく、七海だった。