第18章 第十八話
いつもと同じ、変わらないメールの内容に如月はどこかホッとしながら、ゆっくりと画面をスクロールさせた。
スクロールして現れた最後の方に書かれた文字が、何かの見間違いに思えて、如月は何度も何度も見直した。
『メールが迷惑ならそう言って欲しい。如月が迷惑に思うなら、もう送るのをやめようと思う』
いつものメールにはこんな言葉は書かれていなかった。
もう一度始めからメールを読み返し、震える指でゆっくりと最後に書かれた文字に目をやる。
そこにはやはり、先ほどと同じ言葉が書かれていて、如月の視界はじわりと滲んでいった。
「…当たり前だよね、もうずっと一言だって返事を返していないんだもの…」
知念に返事はしないくせに、いつまでも知念が自分に気持ちを向けてくれているはずがない。
自分がやっているのは、彼の気持ちを試しているのと同じだ。
知念にこんな一文を送らせるまで、私は彼を苦しめ続けていたのだ。
「忘れて欲しいって、思ってたんだから…」
携帯の画面に、如月の目から零れ落ちた滴がぶつかってはじけた。
歪む知念の言葉が目に入り、これ以上彼を苦しめるのはやめよう、と如月は思った。
これが最初で、最後。
こぼれる涙をぬぐって、小さく鼻をすする。
カチカチと誰もいない教室に、如月の文字を打ち込む音だけが響く。
『さようなら』
本当は、きちんと『ありがとう』の言葉を伝えたかった。
けれどそれを打ち込んでしまえば、知念を断ち切ろうとする自身の決意が鈍りそうで、如月はただ「さようなら」とだけ打ち込んだのだった。
あの事件以来、初めて知念に返したメールが最後のメールになるなんて。
もうこれで本当にさよならだ、と思いながら如月は携帯をカバンにしまった。
(…最後までずるくて我儘で自分勝手で、ごめんね。知念君、早く私を忘れて。私も、もう忘れるから――)
メールを送ってしばらくして、ブルブルと携帯がカバンの中で震えているのに如月は気が付いて、そっと携帯を取り出して開けばそこに浮かぶ「知念寛」の文字。
こらえても後から後から湧いてくる涙に、視界はぐにゃりと歪む。
ぐらぐらと揺れる自分の気持ちを必死に抑え込んで、如月は携帯の電源を切った。