第18章 第十八話
今年が知念にとっては最後の全国大会になる。
今年さえ乗り切れば、大会で彼に会う可能性はグッと低くなるだろう。
ところがそんな如月の思いとは裏腹に、今年のテニス部は関東大会を危なげなく勝ち抜いていた。
明日の試合の結果によって、全国大会に出場できるか否かが決まるところまで来ていた。
日々懸命にテニスに打ち込む部員達には申し訳なかったが、如月は全国大会に進んでほしいと心から思えないでいた。
(マネージャー失格だよね、こんな気持ちになるなんて…)
柿谷から手渡されたタオルを受け取り、如月は練習終了の合図を聞きながらタオルをギュッと握りしめた。
部長の柿谷が明日の試合に向けて意気込みを語り、部員達を鼓舞して解散を告げる。
コートの片付けを終えて、如月は教室へと戻り、カバンに仕舞っていた携帯を取り出した。
ピカピカと光るランプに、如月ははやる気持ちを抑えながらメール画面を開いた。
そろそろ届く頃だと思ってはいたものの、実際にそれが知念から届いたメールだと知ると、如月は心から嬉しくなった。
自分の事を忘れて欲しいと願っているのに、こうやって知念からのメールが届くのを心待ちにしている自分がいる。
矛盾した感情を如月は抱いたまま、いつか知念がメールを送って来なくなるその日を待とうとしていた。
(あの頃と同じ…私はいつまでもずるい人間だね、知念君…)
もう2年半も知念は毎月欠かさずメールをよこしてくるが、それに如月が返事をしたことは1度もない。
いい加減彼に呆れられているのではないかと思う如月だったが、今月もまた変わらず届いたメールに未だ彼の気持ちが変わっていないことを知る。
東京に来て心細いを思いをした時も、嫌なことがあった時も、知念のメールが心の支えになっていた。
知念から一方的に送られたメールではあったが、如月はその1つ1つのメールを噛みしめるように読んで、消えてしまわない様にしっかりと保護をかけていたのだった。
今日届いたメールには一体なんと書いてあるのだろうか。
他愛のない知念の近況から始まり、如月の近況を尋ねる一文と、またメールすると締めくくられる、いつもの知念のメールを思い浮かべながら、そっとメールを開く。