第18章 第十八話
薄れている如月の笑顔がぼんやりと浮かんできて、知念はぐっと唇を噛みしめた。
いっそ、メールが届かなくなるか、如月に「もうやめてほしい」と言われたなら、すっぱりと彼女への想いを断ち切れるだろうに。
返事は来ないけれどいまだ拒否されないメールの存在が、次の展開へ足を踏み出そうとする知念を引き留めていた。
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沖縄を離れて2年半が過ぎようとしていた頃、如月は照り付ける太陽の下で汗を流していた。
如月は知念達より少しだけ遅れた高校生活を送っていた。
知念達が3年に進級した頃、如月は2年に進級していた。
ここでは如月の過去を知る者はおらず、まっさらな環境で彼女は新しい友人達に囲まれて穏やかな生活を送っていた。
「美鈴、タオルちょうだい」
「はい、柿谷君」
ベンチに畳んでおいた洗濯したてのタオルを手渡すと、ありがとうと礼を言って柿谷はベンチに腰を下ろした。
柿谷は流れる汗をふき取りながら、コートで打ち合いを続ける部員に目をやった。
「今年はいけるかもな、全国」
「…そうだね」
如月は、知念のことを忘れようと努力していたが、そんなに簡単に消せるような想いではなかったようで、高校で彼女はテニス部のマネージャーを努めていた。
中学生時代に熱心に打ち込んでいた彼の姿をどこかで追ってしまっていたのだろう、知念に関する物事に、如月の心は惹かれずにはいられなかった。
時折届く知念からのメールで、如月は彼が今もテニスを続けていることを知っていた。
彼のそばに寄り添うことは出来ないでいたが、同じ空の下で同じようにテニスに汗を流しているであろう知念の姿が如月の目には浮かんでいた。
如月が引っ越してきたこの東京の地では、テニスの実力が全国区の学校がたくさんあり、如月の通う高校のテニス部は毎年全国までは進めないでいた。
だからこそ如月はマネージャーとして入部を決めたところがあった。
一生懸命汗を流す部員達を前にそんなことを考えるのは悪いと思ったが、全国まで進んだら、いつか知念に出会ってしまうかもしれない。
知念からのメールによれば、彼らは高校に入ってから毎年全国まで駒を進めていたのだった。