第18章 第十八話
そのうちの1人は平古場の彼女だったが、その自分の彼女の横に、いつも知念を応援している女子がいることに平古場は気が付いていた。
「寛、あの子、やーのこといっつも応援してるやぁ」
自分の彼女ににこやかに手を振りながら、隣の知念に気になる女子の存在を問う。
知念は相変わらず表情を変えることなく涼しげな顔で答えた。
「同じクラスなんやさ」
「ふーん。でもそれだけじゃないだろ?」
「…さぁな」
言葉を濁す知念に、平古場はなんと言っていじってやろうか、と思案した。
けれどふと、如月の姿が頭に浮かんで、目の前の知念になんとも言えない感情が湧いた。
高校に入ってから、知念や木手が如月のことを口にする回数はめっきり減り、3年になった今では全くといっていいほど耳にすることは無かった。
木手は如月のことを振り切ったのか、それとも敢えて振り切るためなのか判断はつかなかったが、新しい彼女を作ってそれなりにうまくやっているようだったし、知念にも新しい恋が訪れても可笑しくは無かった。
いくら如月のことを想っていても、一つも連絡をよこさず、知念からのメールに対して返事もないのであれば、知念の心が離れて行くのも致し方ないことのように平古場には思えた。
「可愛い子じゃん、俺、応援するぜ」
「わーばぐぅとぅさんけー(余計なことするなよ)」
「なんだよ~友達がひと肌脱いでやろうってのに」
「しむん(いらない)」
そっけない知念の答えに、平古場は、なんだよ、と口をとがらせた。
平古場の頭に如月のことがふいによぎったように、同じように知念の頭にも如月のことがよぎっていた。
隣で口をとがらせて拗ねて見せる平古場は、如月のことを口にはしなかったが、昔知念に、如月からいつか返事がくるはずだ、と励ましてくれたことがあった。
そんな彼がそのことを持ち出さず、まるで知念が新しい恋に進むことを良しとしているようで、知念は複雑な気持ちになった。
平古場は、そんな昔の発言など忘れてしまっているのかもしれない。
彼にとってあの言葉は、知念が思っているほど重要な言葉ではなかったのかもしれない。
けれど平古場のあの言葉が知念の潰れそうになる気持ちを今日まで支えてくれていたのは事実で。